目次へ戻る
前の章に戻る
26.震災による土地の損失額
 この震災が直下型であったため、土地が非常にゆがんだ形で
被害を受けるなど使用が困難で修復費用も多額です。また、震
災以後阪神間の土地の時価が大幅に下落していますが、今回の
特例法はこのような土地の損害に対する措置、例えば雑損控除
について全く考慮されていないのは片手落ではないでしょうか。
 
要旨
 土地の地震による価値下落は、雑損控除の時価損失額と認識しな
いとしており、その理由として、雑損控除の損失とは、物理的損害
をいい、経済的損害をいうものではないとしています。(大阪国税
局の見解、近畿税理士会配布資料より。)
よって、評価損的なものはありませんが、災害復旧費用としては手
当てされています。
 
解説
 住宅の敷地であった土地に被害(地割れ、沈下、隆起、がけ崩れ
及び液状化現象等)を受けた場合の原状回復のための費用を災害関
連支出の額とします。ただし、震災特例法により、平成6年分の雑
損控除の対象となる災害関連支出は、平成6年分の所得税の確定申
告書を提出する日の前日までに支出したものに限られます。
 なお、原状回復のための費用を工事着手の遅延等により確定申告
書提出前に現実に支払っていないときは、その費用の見積額をもっ
て、資産本体の損害額とみて、雑損控除の適用をすることができま
す。また、土地を修復したことにより、宅地面積の増加部分の費用
及び未舗装地に新たに舗装したことによる舗装費用等については、
損害額に含まれません。(近畿税理士会阪神・淡路大震災対策特別
委員会作成申告関係資料より)
 
留意点 
 平成7年8月18日に平成7年分の路線価が全国一斉に公開されま
したが、これに伴い阪神・淡路大震災の被災地域内の土地の評価に
ついて、被災の程度に応じ路線価に一定の調整を行う措置が講じら
れましたが、あくまでも被災地域内の土地等に係る相続税・贈与税
・地価税について適用されます。
 
課題事項
 この震災で住宅が流され、元の土地に建物を戻すための測量も、
そのポイントとなる基準地点が地震で判らなくなり、その測量すら
不可能な場所もあります。また市の規制で売買できないような地域
や、震災により電車の駅が移転(伊丹駅)したり、スーパーマーケ
ットが駐車場になったりしたために人の流れが変わり土地の価額が
大幅に下落してしまった例が多数あります。
 この原因の全てが経済的損害のみであって物理的損害は皆無であ
ったといえるのかどうか疑問が残ります。
 さらに、仁川(宝塚市)のようにがけ崩れにより建物ごと崩れ落
ち、修復不可能な場所や、修復しても宅地の面積が減少(水平投影
分に対応する土地が減少するのではなく、擁壁等の勾配による有効
利用面積の減少)してしまう所も多数ありますが、その所有者が資
力を喪失し原状回復のための費用を支出できない場合、雑掲控除の
対象とならないのかという疑問が残ります。
 土地の損失も支出の有無を問わず、土地の時価損失として雑損控
除を適用すべきかどうか検討の余地があると思います。
 
27.第3次生活支援金の交付と総所得金額
 私は、この震災で自宅が全焼しました。平成6年分で雑損控
除の適用を受けず、平成7年分の所得税の確定申告で1000万円
の雑損控除の適用を受けました。
  なお平成7年分の総所得金額は800万円でした。
 今回、第3次生活支援金の交付を受ける手続きがあると聞いた
ので申請したいのですが、給付を受けることができますか。
 
要旨
 今回の給付の対象となる世帯は、主たる生活維持者の平成7年分
の総所得金額(所得税法第22条の規定による総所得金額)が690万
円以下の世帯です。ここでいう総所得金額とは、事業所得他、各種
所得の金額の合計額を指し、雑損控除額を控除する前の所得で判定
します。したがって、あなたの場合、総所得金額 800万円が判定基
準となりますので、今回の給付は受けられないこととなります。
 
留意点
 平成6年分の確定申告で雑損控除を受けた場合、雑損失の翌期繰
越控除額が生じ(例えば平成6年分の総所得金額が  800万円とする
と、上記の雑揖控除 1000万円を差し引くと、200万円の雑損失の繰
越控除額が生じます。)その繰り越された200万円を平成7年分の総
所得金額800万円から控除した600万円が、所得税法第22条の規定に
よる総所得金額となりますので、要旨の冒頭に記した 690万円以下
という今回の要件を満たし、給付を受けることができました。
 
課題事項
  震災で同じ被害を受けた者が平成6年分で雑損控除の適用を受け
なかった場合、あるいは災害減免の適用を受けたために第3次生活
支援金の交付を受けられないという不公平には問題があります。
 
参考
 第3次生活支援金の交付申請について(神戸市の場合)
(交付対象世帯)
 阪神・淡路大震艶により、住宅が全焼・全壊、半焼・半壊の被害を
受けた世帯(第1次の支給対象世帯)で、主たる生計維持者の平成7
年分の所得税法第22条に規定する総所得金額が690万円以下の世帯。
(交付額)
1世帯10万円(1世帯1回限り)
   
28.全壊した建物と地震保険金の取扱い
 8世帯に賃貸していた文化住宅(帳簿価額800万円)が震災
で全壊しました。この建物に対する地震保険金を損害保険会社
から500万円受け取りました。他にも賃貸アパート(10室)を
所有していますが、この建物は一部損壊で修復のために修繕共
用が100万円かかりました。なお、この賃貸アパートには地震
保険を掛けていませんでした。この損害保険会社から受け取っ
た500万円は不動産所得の計算上、収入になるのでしょうか。
 
要旨
 賃貸していた文化住宅が全壊したのですから、その残存帳簿価額
 800万円は、必要経費に算入されます。また、保険会社から受け取
った 500万円は収入として雑収入に計上することとなります。
 もし、仮に、残存帳簿価額が 500万円で、保険会社から受け取っ
た保険金の額が800万円とした場合は、その残存帳簿価額500万円が
必要経費に算入され、収入として雑収入に計上される金額は 500万
円となります。この差額 300万円は非課税とされ、他の賃貸アパー
トの修結費 100万円と相殺する必要はありません。
 
解説
 所得税法第9条第1項第16号は、非課税所得として「損害保険契
約に基づく保険金で突発的な事故により資産に加えられた損害に基
因して取得するもの」を掲げています。地震保険金はこれに該当し
ます。
 この事例の場合、文化住宅(8室)と賃貸アパート(10室)です
から「事業的規模」と判断して回答しましたが、文化住宅(8室)
だけの場合は「業務的規模」となりますので雑損控除の適用が選択
可能となります。この場合、文化住宅の損害額の算定に「時価」が
採用されます。損害額を簡易計算で計算した場合の「時価」と残存
帳簿価額とのいずれか有利な方を選択することができます。この場
合も受け取った保険金は控除する必要があります。
 なお、雑損控除の損失額を計算する場合の損失を補てんするため
の保険金や損害賠償金は、現行法と震災特例法とで異なることはあ
りません。
 
参考
次に掲げるものが、損失を補てんする保険金等に該当します。
(所法72@、所基通72-6により51-6を準用)。
(1)損害保険契約又は火災共済契約に基づき被災者が支払を受ける
 保険金・共済金
(2)損害保険契約又は火災共済契約に基づき被災者が支払を受ける
 見舞金
(3)資産の損害の補てんを目的とする任意の互助組織から支払いを
 受ける見舞金
(4)資産の損失により支払を受ける損害賠償金
 
29.り災証明書の法的根拠
 この震災では、り災証明書が雑損控除の簡易計算に資しただ
けではなく、地方自治体を経由した義援金の交付や、各種融資
制度あるいは支援措置を受ける上で、重要な機能をもたらしま
した。また、証明書に記載された被災程度の大小によって、受
益額に大きな差が生じています。
 り災証明書そのものの証明事項や内容の法的根拠について説
明してください。
 
要旨
 り災証明書という法令上の文言はありません。被災証明書とか被
害証明書、調査結果報告書等、被災各市町で異なった名称が使用さ
れています。また、災害被害の把握や、調査に関する業務は、消防
庁、警察庁、厚生省、建設省等が所掌する各法にありますが、り災
証明書を発行する業務は、地方自治法第2条地方公共団体の法人格
及び事務の規定から、市区町村が行うべき職務であるとの解釈によ
っています。
 また、その被害認定基準を各省庁所掌で統一するため、「災害の
被害認定基準の統一について」という事務連絡(昭和43年6月14日
内閣総理大臣房審議室長)があり、これに基づき、各市区町村がそ
の責任において発行しているものです。
 
課題事項
 り災証明書が、公的諸制度利用の前提となったことから、その適
正、公正な発行がなされなかった場合や自らその発行を求めること
ができなかった者は、不利な立場におかれたことは否めません。そ
のような場合、行政不服審査法上の不服申立てができるのか、でき
ないのか不明ですが、その影響は余りにも重大ではないかと思いま
す。
 災害救助の基準となりうるり災程度の判定については、行政側に
明確な責任の所在が定められているとはいい難く、簡易計算による
損失額の計算についてもり災証明の内容を尊重しなかったケースも
見受けられるなど、いずれにしても、り災証明書の重要性からみ
て、その法的位置付けを明確にすることが望まれます。
 さらに、り災証明書の発行期限が設けられたことは今回のような
大震災では問題があります。発行期限をなくすか、もっと長期間に
する必要があったと思います。
(注)り災証明書に関しては、「〔5〕り災証明書の発行をめぐって」
    を御参照下さい。
 
30.雑損控除の適用年分と更正の請求
 この震災により自宅が全壊したため、平成6年分の所得税の
確定申告により雑損控除の適用を受けました。ところが、提出
期限後に平成6年中に妻の医療費 100万円を支払っていたこと
を思い出し、すでに提出した確定申告書を取りやめ、もれてい
た医療費控除の更正の請求は可能ですか。また、平成6年分で
適用を受けた雑損控除を平成7年分に振り替えることは可能で
すか。
 
要旨
 申告もれの医療費控除は更正の請求の対象となりますが、平成6
年分で適用を受けた雑損控除を平成7年分に振り替えることはでき
ません。
 
解説
 国税通則法では、「修正申告」は納付すべき税額に不足額がある
場合にできることとされています。また、「更正の請求」は、納税
者が提出した納税申告書に記載した課税標準等や税額等が国税に関
する法律の規定に従っていない場合や計算に誤りがあったような場
合に適用できます。(通則法19及び23)
 ただし、納税者からこの事例のような申し立てがあったケース
で、税務当局がその事情を十分聴取した上で弾力的に取り扱った例
もあるようです。
 
留意点 
 この法律の施行日(平成7年2月20日)以前に確定申告書を提出
した者は、同日から起算して1年を経過する日 (平成8年2月
20日)までに税務署長に対し更正の請求をすることができます。
(震災特例法附則2)
 
課題事項
 現実には、平成6年分と平成7年分の申告を平成8年で同時に提
出することにより、平成6年分適用、平成7年分適用の有利・不利
の計算が可能です。しかし早期に税額の還付を望むために平成6年
分の申告を平成7年5月31日までに多くの納税者が申告を済ませま
した。
 被災者救済の観点から、平成6年分または平成7年分で雑揖控除
の適用を選択変更できるような措置を設けるべきだと思います。
 この事例に類する質問が多数ありますので、参考までに例示して
おきます。
 
(類似事例1)
 簡易計算による住宅・家財等の損失額が200万円発生しました
が、平成6年分の確定申告書(所得500万円)を平成7年5月27日
に震災特例法の適用をせずに提出しました。ところが、平成7年9
月に土地を譲渡することとなり、平成7年分の所得が2300万円程度
見込まれます。
 平成6年分で雑損控除の適用を受けようと思い、税務署へ電話で
確認したところ、この更正の請求が1年以内であるにもかかわら
ず、できないといわれました。その理由が分かりません。
  
(類似事例2)
 震災特例法の適用により、平成6年分で雑損控除の適用を受けま
したが、その後平成7年に借地権者から買い取りたい旨の申し出を
受けたため、やむなく土地を譲渡することとなり、高税率の分離課
税の譲渡所得が発生しました。その結果、雑損控除は平成7年で適
用する方が有利になることが分かったため、平成6年分については
修正申告書を提出し、平成7年分で雑損控除の適用を受けたいので
すが認められるでしょうか。
 
目次に戻る
次の章に進む