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6.簡易計算における住宅の床面積の計算
  半壊したマンションの簡易計算による損失額の計算を、登記
簿謄本に記載されている専有面積で行い申告をしました。後日、
隣戸の人の話では建物の面積の計算に当たってはマンションの
販売時のパンフレットによる専有面積とベランダ面積の合計で
計算し、税務当局に認めてもらった、とのことです。私もその
計算で申告をやり直したいのですが、認められるのでしょうか。
 
要旨
  「更正の請求」をすることができます。その請求に正当な理由が
あれば、税務署長は、当初の申告を更正しなければなりません。た
だし、平成6年分の申告は平成8年5月31日までに、平成7年分の
申告は平成9年3月15日までに更正の請求書を所轄税務署長に提出
して下さい。
 
解説
  登記簿謄本に記載されている専有部分の床面積は、壁の内法計算
によっています。パンフレットによる床面積は壁心に基づいていま
すから前者の方が壁の厚さの2分の1の厚み分だけ狭くなることに
なります。
 また、ベランダの面積は、各区分所有者の共有部分に係る専用使
用が、管理組合の規約で定められていますから、各区分所有者には
専有の所有権は存在しません。したがって面積については、販売時
のパンフレットあるいは建築業者の図面から割り出すしかありませ
ん。ところで、マンションの面積については、例えば固定資産税の
納税通知書の附属書類に、各区分所有者宛の課税明細書がついてい
ます。不動産登記法上、建物は壁心面積で登記されますが、区分所
有建物の専有部分は内法面積とされています。マンションの場合、
建物全体の面積を表すところの、表題部の表示登記に、壁心による
全体の面積が示されています。マンションの一棟の建物内には、エ
レベーター、廊下、集会室、管理人室等の共有部分が含まれていま
すから、マンションについてのみ、専有部分の内法計算による登記
簿面積と考えるのは均等を失しています。簡易計算の適用上の注意
事項に特にその点が明記されていない以上、この計算方法が法律に
基づく規定でないとしても、一棟全体の壁心面積による一戸建と同
じ方法による床面積の全体を、各区分所有者へ配分するのが妥当と
考えます。
 
7.簡易計算による損害額を上回る修繕費
の取扱い 
  居住用の家屋が半壊したため、平成6年分で雑損控除を適用
しました。損害額は簡易計算で家屋840万円、家財320万円とし
て申告しました。平成7年8月に実際に家屋の修理をしたところ、
1200万円かかってしまいました。全部が原状回復のためのもの
です。このように申告をした以上にかかった修理費360万円は、
どのように扱えばよいでしょうか。
  なお、保険金は一切もらっておりません。
 
要旨
 平成7年分の所得税の確定申告において、追加差額の360万円を
「災害関連支出」として雑損控除の適用ができます。
 しかし、平成6年分の所得税の確定申告で適用した簡易計算にお
ける時価損失額840万円が誤りであり、実際の原状回復費1200万円
が正しい時価損失であると考えられる場合は、更正の請求をして平
成6年分の所得税額の減額を求めることが可能と考えられます。
 
解説
 平成6年分で、簡易計算によって計算した損害額 840万円が、実
際の支出より過少であった場合の救済の仕方が本事例です。
 平成6年分の簡易計算における時価損失額が過少であったのか、
単に事後負担の原状回復費が当初の時価損失額を超過したのかが判
断のポイントとなります。一般的に原状回復費が即、時価損失と同
額とみることはできませんが、合理的な計算によるか、または、精
通者の判断による時価損失額が同額になるような事例については、
時価損失額の修正もできると考えられます。
 さらに、時価損失額が過少であったと考えられる場合については
当初適用した簡易計算による時価損失額を、のちに判明した実際の
時価損失額に変更することができるのかという問題があります。
 簡易計算は、時価損失額の算定が困難である場合に採用すること
ができますから、事後に実際の時価損失額が明らかになった場合
は、所得税法本則にしたがって更正の請求によって、当初の時価損
失額の修正による所得税の減額ができるものと思われます。
 なお、近畿税理士会発行(平成7年3月6日)の「所得税申告関
係資料集」のP.99では、「当初簡易計算で申告した後、積み上げ方
式で更正の請求は可能か。」という問いに対し、「できないと考え
られる」としています。
 法律ではない行政上の取り扱いとしての簡易計算の適用に関する
問題点として判断の難しいところですので、この点も伴せて検討す
る必要があります。
 
留意点
(1)「災害関連支出」には、住宅・家財等の時価損失額が除かれま
 すが、この部分で誤りが多く出たようです。
(2)「災害関連支出」は法令上「災害がやんだ日の翌日から1年を
 経過した目の前日まで」に実際に支出した場合にのみ認められる
 こととされていますが、今回の震災では修繕をしたくても業者が
 来てくれないなどの事情があったため、平成8年3月15日までに
 見積書などで金額が分かる場合は、これを認める扱いがなされて
 います。
(3)「災害関連支出」の計算上の「原状回復のための支出」には、
  修繕に付随した改築など資本的支出になるものは含まれません。
(4) この事例では、家屋の復旧費はすべて「原状回復のための支
  出」とされています。「資本的支出」かどうかの区分が困難な場
  合は、30パーセントを「原状回復のための支出」とし、その他は
 「資本的支出」とするという取扱いがあります。
(5)「災害がやんだ日」とは、余震等の被害があった場合を除き、
 原則として震災当日の平成7年1月17日とされていますが、この
 取扱いについては、納税者の間で強い不満が出ています。
 
課題事項
 今回のような大規模震災の場合、「災害関連支出」を1年で区切
る制度は、納税者間の不公平、不合理を招きますので特別視定を
もって延長でさるようにすべきと考えます。
 
参考
雑損控除の対象となる損害金額は、住宅や家財などについて受け
た損失額と災害に関連してやむを得ない支出(災害関連支出)を
した金額です。(所法72@、所令206)
 
〈雑損控除の対象となる損害金額の範囲〉
 
 
 
 

〈控除額〉
 

 雑損控除の控除額は、災害関連支出の金額(上記の災害関連支出のうち、Cを除きま
す。)の有無等の区分に応じ、それぞれ次のようになります。(所法72、所令206)
 
 
   
  
8.業務的規模の非住宅と簡易計算 
   事業と称するに至らない業務的規模の非住宅(店舗、倉庫、
工場、事務所等)について、簡易計算を適用することはできな
いのでしょうか。もし、適用できないとすれば住宅の時価額簡
易表による評価額を修正した上で適用してもよいでしょうか。
 
要旨
  住宅の時価額簡易表は、住宅を対象として1u当たりの単価が定
められています。したがって、店舗、倉庫工場、事務所等につい 
ては住宅に該当しないため簡易計算の適用は認められていません。
また、簡易計算においては、1u当たりの時価額の補正適用につい
ても認められていません。
 
解説
 この震災で被害を受けた住宅の損害額の計算に当たっては、被害
のあった時の時価(その資産が被害を受ける直前の価額)を基とし
て個々に計算することとなっていますが、損害を受けた資産につい
て個々に損害額を計算することが困難な場合には、簡易な方法で計
算してもよいことになっています。
 住宅と異なって、一般的には、店舗、倉庫、工場、事務所等に
は、バス及びキッチン(あっても簡易キッチン程度)などの設備が
ありません。また、内装も通常は借家人が負担しますので、建築コ
ストが住宅ほどかかっていないと考えられます。
 したがって、住宅以外の建物はその資産と同一の資産を構入する
場合の取得価額からその資産の実際に即した減価償却の額を差し引
くなどして合理的に計算することとなります。
 
課題事項
 業務的規模の非住宅の場合、特に簿価が不明なケースが多く算定
が困難であったという問題が生じています。
 税務の現場では、現在、事務所として使用しているが、以前、住
宅であり、バス・トイレ・キッチン等の設備があるため、簡易計算
が認められたケースや、店舗伴用住宅でも簡易計算をベースに計算
が認められたケースもあったようです。
 計算が困難なために住宅の時価額簡易表が作成されたのですか
ら、簡易表の内容を更に細かく店舗、倉庫、工場、事務所等に区分
すれば、被災者の救済がより徹底されたと思います。
  また業務的規模の非住宅の場合、特に薄価が不明なケースが多く
算定が困難であったという問題が生じています。
 
9.未完成建物の簡易計算の適用 
    この震災で、90パーセントまで完成していた自宅が全壊し
ました。工務店に被害状況の証明書を発行してもらい、被害状
況を示す写真と、り災証明書を添付して簡易計算による雑損控
除の申告書を提出しました。
 なお、雑損控除額は全壊でしたので「住宅の時価額簡易表」
の1uに、建築確認申請書に記載されている面積を乗じて計算
された被害額の90パーセントとしました。この計算で正しかっ
たのでしょうか。
 
要旨
 建築中の建物の被害額を計算する上で、簡易計算が適用できない
という規定は見当たりません。
 個別事例ですが、請負契約書に「天災等により建物が損壊したと
きは、施主がその責任を負う」という条項があったため、簡易計算
が認められたという報告もあります。
 
解説
 本来、簡易計算はその損害額を計算することが困難な場合に認め
られるものと考えられますが、全壊の場合の被害直後の時価はゼロ
ですから、被害直後の時価を算出することは困難なことではありま
せん。
 しかし、「住宅の時価額簡易表」は平成6年に新築した建物も簡
易計算の対象としていますから、請負契約書に「天災等により建物
が損壊したときは、施主がその責任を負う」という条項があり、震
災当時の完成度が工務店の証明書や写真等により証明でき、かつ、
その損害額を施主が負担した場合には認められると思います。
 
留意点
(1)保険金等で補てんされる金額がある場合には、その金額を差し
 引いた後の金額が損害額となります。
(2)一般の未登記の建物であっても、固定資産税評価証明書等に
 より面積が確認できれば、簡易計算は適用できます。
(3)請負契約書には、「全額施主負担とする」あるいは「半額施主
 負担とする」という特約条項が記載されている場合がありますか
 ら注意が必要です。
(4)全壊の建物の損害額を実額で計算する場合、残材の評価額を差
 し引く必要がありますから留意して下さい。
 
参考
 「この度の阪神・淡路大震災により被害を受けた住宅又は家財等
の損害額の計算については、被害のあった時の時価(その資産が被
害を受ける直前の価額)を基礎として個々に計算することとなって
いますが、損害を受けた資産について個々に計算することが困難な
場合には、便宜、次のような方法により損害額を計算していただい
てよいことにしています。
 なお、保険金、共済金及び損害賠償金等で補てんされる金額があ
る場合には、その金額を差し引いた後の金額が損害額となります。
…以下省略…」(大阪国税局税務署発行)〔住宅、家財等に対する
損害額の簡易計算(阪神・淡路大震災用)〕より
 
10.同一マンションにおける異なる被害
割合
  この震災で所有するマンションが半壊したため、り災証明書
の交付を受け、簡易計算により雑損控除の適用を受ける確定申
告をしました。後日、税務署から、「あなたのマンションの被
災は一部損壊が妥当であり管理組合も了承しているので居住者
全員、一部損壊で統一してほしい。」と連緒がありました。こ
の地区では、り災判定がまちまちで、例えば内部の壊れ方の激
しいところは半壊、そうでないところは一部損壊といった状況
です。私はどのように対処したらよいでしょうか。
 
要旨
 区分所有の建物については、建物の同一棟、同一被害が原則と考
えるべきでしょうから、被害割合を建物のどの箇所の被害と捕らえ
て判定したのか、そのことを管理組合や、税務当局とよく話し合う
ことが大切です。
 注意すべき点は、区分所有の建物はあくまで一つの建物ですか
ら、最も被害の大きい箇所の全体に与える影響を専門的に判定した
上で、統一的な被害割合を適用することが妥当でしょう。
 したがって、納得できれば修正申告を、できなければ更正処分を
受けた後に不服申立ての手続を行うことになります。
 
解説
 税務行政に限らず、行政の執行は公正、かつ公平で、その過程が
透明でなければなりません。行政手続法第1条では、「行政運営に
おける公正の確保と透明性」(行政上の意思決定について、その内
容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。)と説明して
います。り災証明書を行政が発行する法律の根拠規定はありません。
 しかし、現実には、り災証明書の記載内容が全壊、半壊以上であ
れば義援金の配分基準とされ、自治体がその交付窓口となっていま
す。また、公的融資を利用する場合、り災証明書の交付を受けてい
ることがその要件とされています。したがって、その内容の訂正や
統一は発行した自治体が、その責任でやり直すべきものであって、
税務上の取扱いもその措置に適合させることが、災害税務の本旨に
沿うものと考えられます。行政の執行の公平という点からは、税務
行政が市の発行したり災証明書の被害割合判定そのものを信頼しな
いことは、納税者の側からは、極めて納得し難いことであり、り災
判定についても、一戸建と区分所有建物(マンション)とで、結果
的に不均衡な扱いを受けていることにも問題があります。
 
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