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46.被災した事業用資産の買換
大震災で個人営業の工場(長田区所在)が半壊しました。専門
家が診断した結果では、このままでは根本的修繕を施しても、機
能回復は不可能とのことで、この工場を敷地とともに譲渡しまし
た。
新たに工場を再建したいと思っていたところ、よい物件が見つ
かり買い取ることとしました。この場合、譲渡所得の計算上、何
か特別措置はありませんか。
要旨
個人の特定事業用資産の買換特例は、従来より措置法37条に規定
されておりますが、今回の震災特例法により、平成7年1月17日か
ら平成12年3月31日までの間に譲渡し、原則としてその譲渡の日の
属する年の12月31日までに買換資産を取得した場合、一定の要件の
下で、事業用資産の買換の特例が受けられることとなりました。
したがって、解説に記載する要件に適合すれば、買換の特例
が受けられ、課税を前期買換資産は100%繰延べすることができます。
ただ、事例の場合に注意をすべきは、「被災区域」に該当するか否
かで、建物が減失していないため、「通常の修繕によっては現状回
復が困難な損壊」であれば、該当することとなります。
解説
要件は、上記期間内に譲渡するとともに、取得した日から1年以
内に事業の用に供したとき、または供する見込みであることも必要
です。
適用となる買換の態様と繰延割合は下記の表の通りです。
事例の場合ですと@に該当しますので、国内にある土地、建物そ
の他減価償却資産を買換資産とすることができます。
なお、区分A〜Cはいずれも、被災区域外から被災区域への買換
です。
区 分 | 譲渡資産 | 買 換 資 産 | 繰延割合 |
@被災区域
からの買 換 |
被災区域である土
地等又はこれらとと もに譲渡をするその 土地の区域内にある建物及びその附属設 備若しくは構築物で平成7年1月17日前 に取得がされたもの |
国内にある土地等又は国内にある事業用に供される減価償却資産
|
100%
(後期買 換資産の 場合は、 80%) |
A被災区域
外の区域 から被災 区域への 買換 |
被災区域外の区域
内にある土地等、建 物又は構築物 |
次に掲げる資産
イ 被災区域である 土地(平成7年1月 17日前に取得を し、現に有している ものに限る。)の上 に存する権利 又はその土地の 区域内にある事業 の用に供される減 価償却資産 口 被災区域である 土地(平成7年1月 17目前に取得を
し、現に有している 土地の上に存する 権利に係るもの に
限る。)又はその 土地の区域内にあ る事業の用に供さ
れる減価償却資産
|
100%
(後期買 換資産の 場合は、 80%) |
B被災区域
外の区域 から被災 区域への 買換 |
被災区域外の区域
内にある土地等、建 物又は構築物 |
既成都市区域以外の地域内にある被災区域である土地若しくはその土地の上に存する
権利又はその土地の区域内にある事業の用に供される減価償却資産
|
100%
(後期買 換資産の 場合は、 80%) |
C被災区域
外の区域 から被災 区域への 買換 |
被災区域外の区域
内にある土地等、建 物又は構築物 |
既成都市区域内にある被災区域である土地若しくはその土地の上に存する権利又はその土地の区域内にある事業の用
に供される減価償却資産
|
80%
(後期買 換資産の 場合は、 60%) |
(注)1 「被災区域」とは、大震災により滅失(通常の修繕によっては現状 回復が困難な損壊を含む。)をした建物等の敷地及び当該建物等と一 体的に事業の用に供される附属施設の用に供されていた土地の区域を いう(震災特例法10@)。 2 「既成都市区域」とは、近畿圏整備法第2条第3項に規定する既成 都市区域をいい、大阪市の全域、守口市・東大阪市・堺市・京都市・ 神戸市・尼崎市・西宮市・芦屋市の特定の区域をいう。 3 「後期買換資産」とは、平成10年4月1日以後に譲渡をした譲渡資 産に係る買換資産で同日以後に取得をしたものをいう(震災特例法 14@)。
とは異なり、大震災により滅失をした建物の敷地(地点)とされ
ております。したがいまして、被災区域の隣りが被災区域外とい
うこともあります。
(2)通常の修繕によっては現状回復が困難な損壊とは、現に使用を中止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと
認められる程度の損壊をいうものとされております。
(3)買挽資産が土地等である場合は、譲渡資産である土地等の面積
の5倍以内という面積制限があり、これを超える部分は買換資産
に該当しません。
課題事項
平成10年4月1日以後の買換については、いずれの場合も繰延割
合が20%減少することとなっております。また、譲渡期間の制限も
平成12年3月31日までとなっておりますが、被災納税者の救済の意
味からも、割合をダウンすることなく、また、期限の延長も考慮す
べきと思われます。
法令等
震災特例法10、14
震災特例法令13
震特法通達(所)14-1、14-2、14-3、14-4、14-5
47.居住用マンションの買換
阪神・淡路大震災によりマンション(居住用)が全壊しました。
このマンションの管理組合の総会決議により、その敷地の共有持分
をいったん建築業者に売却の上、その建築業者よりマンションの分
譲を受ける予定です。この場合、敷地売却についての税金はどのよ
うになるのでしょうか。
また、資金繰りの関係で分譲を受けたマンションをそのまま転売
した場合についても、教えて下さい。
要旨
(1)この事例はマンションの共有持分の敷地を売却し、新たに分譲
マンションを購入した場合で、解説に記述する要件に該当すれば
立体買換の特例が適用され、次の取扱いとなります。
@分譲マンションの取得価額が敷地の譲渡価額と同額またはそ
れ以上であるときは、その譲渡はなかったものとなります。
A敷地の譲渡価額が分譲マンションの取得価額をこえるとき
は、その超える部分について譲渡所得として、課税されます。
(2)上記(1)の適用をせずに、選択により居住用財産の譲渡所得の
課税特例(居住用財産の特別控除「措法第35条」、軽減税率「措
法第31条の3」、2億円以下の買換え「措法第36条の6」)の適
用も考えられます。
(3)マンションをいったん取得後、売却した場合は短期の譲渡所得
として通常の課税が行われます。
解説
(1)既成市街地等内にある土地の中高層耐火建築物等の建設のた
め買換えの場合の譲渡所得の課税の特例は以下の条件を満たして
いる場合に適用があります。
@譲渡資産である土地が既成市街地等内またはこれに準ずる区
域内にあること。
A譲渡資産の譲渡直前の用途については、事業用または居住用
であることを問わない。
B譲渡資産である土地の上に地上階数3以上の中高層耐火(準
耐火を含む。)共同住宅(2分の1以上が住宅であるもの)の
建築をするために譲渡すること。
C上記Bの建物は、譲渡資産を取得した者または譲渡した者が
建築したものであること。
D上記Bの建物は、建築基準法にしたがって建築されたことを
証する検査済証の交付を受けたものであること。
E上記Bの建物(その建物の敷地の用に供されている土地を含
む。)の一部を譲渡した年の12月31日(税務署長の承認を受け
た場合は、譲渡した年の翌年以後3年)までに取得すること。
F取得した建物を取得の日から1年以内に、その取得した者の
居住用(親族の居住用を含む。)または事業用(生計を一にす
る親族の事業用を含む。)に供するか、供する見込みであること。
(2)上記(1)と同様の特例として特定民間再開発事業の特例があ
ります。この規定はその適用要件が上記(1)と類似していますが、
以下の点において異なっています。
@対象地域については、(イ)既成市街地等内だけで準ずる区
域は含まれていません。また、(ロ)都市再開発法第2条の3
第1項第2号に定める地区、(ハ)都市計画法第8条第1項第
3号の高度利用地区(ニ)都市計画法第12条の4第1項第3号
に掲げる所定の地区が対象地域に含まれています。
A建築される建物は、地上階数4以上の耐火建物(2分の1以
上居住用の制限はない。)で、建築事業について都道府県知事
の認定を受けたものであること。
B取得する建物については、上記@(ロ)〜(ニ)の場合、同
一の地域内で別の特定民間再開発事業で建築されたものでも適
用されます。
留意点
(1)買換資産(上記解説の(1)及び(2)のどちらもが対象)の先
行取得については、譲渡した年のみが認められます。
(2)買換資産の取得価額については、譲渡資産の取得費を引き継ぐ
ことになります。買換資産を事業の用に供する場合は、立体買換
の特例を適用するかどうか減価償却等を考慮の上、判断する必要
があります。
(3)買換資産の取得時期は、実際の取得日になり譲渡資産の取得日
は、引き継がないことになります。
したがって、取得後5年以内に売却すれば短期譲渡に該当します
ので、近い将来買換資産を売却する予定の場合も特例を適用するか
どうか慎重に判断する必要があります。
法令等
措置法37の5
48.所得税と住民税の雑損控除の選択関係
平成6年分の所得税の確定申告で、雑損控除を適用し申告し
ましたが、住民税ではどのような取り扱いになるのですか。
要旨
この場合、住民税について何もしなければ、通常は平成7年度の
住民税も雑揖控除の適用を受けることとなり、さらに、税額がある
ときには、減免等の措置の適用を受けられる場合があります。また、
住民税の減免等の措置の適用のみを受けるのであれば、平成7年度
の住民税で雑損控除の適用をしない旨の申告を行い、災害減免の扱
いを受け、平成8年度に雑損控除の適用を受けることもできます。
解説
阪神・淡路大震災に伴う被災地の個人住民税につき、@「条例に
よる災害減免扱い」とA「雑損控除」の選択ないし併用による税額
軽減ができることとなりましたが、特例法施行に伴い、所得税と住
民税の取り扱いが違ったため、選択方法により住民税の損得が生じ
ることとなりました。
この点につき、平成7年分の所得税の確定申告に際し、次のよう
に取り扱うこととされました。
(1)平成6年分の所得税の確定申告で「災害減免法」を適用して申
告した場合
@ 別途に住民税の申告書を提出しない場合には、自動的に災害
減免扱いとなります。(市町によっては、減免申請書を提出
し、調査で判定することもあります。)
ただし、別途に住民税の申告書を提出し、「雑損控除」を適用
すれば、住民税のみ雑損控除の適用となります。
この場合、翌年の平成8年度住民税は、通常の課税となります。
A 別途に「雑損控除」の適用の旨の住民税申告書を提出しなか
った場合には、平成8年度住民税申告書(提出期限:平成8.
3.15)で雑損控除の適用ができることとなります。
(2)平成6年分の所得税の確定申告で「雑損控除」を適用した場合
@ 別途に住民税の申告書を提出しない場合には、自動的に雑損
控除が適用されます。この場合、なお税額がある場合には、災
害減免扱いとなり、軽減される場合があります。
A 別途に住民税の申告書で雑損控除の適用をしない旨の申告書
を提出した場合には、住民税は災害減免扱いとなります。
この場合、平成8年度住民税申告書で雑損控除の適用を受ける
ことができます。
(3)個人住民税における雑損控除について
@ 対象となる資産の範囲等
生活に通常必要な資産に限られます。(たな卸資産や事業用の
固定資産、生活に通常必要でない資産は除かれます。)
A 控除額の計算方法
次のイとロのうちいずれか多い方の金額が雑損控除額として、
所得金額から控除されます。
なお、損失額が大きく、その年の所得金額から控除しきれない
ときは、翌年以後3年間に限り各年の所得から順次繰り越して
控除することができます。
イ.差引損失額一所得金額の10分の1
ロ.差引損失額のうち災害関連支出の金額−5万円
(注)・「差引損失額」は、損害金額から保険金などによって補
填される金額を控除したものです。
・「災害関連支出」とは、災害により倒壊した住宅、家財
の取壊し費用や除去費用などです。
・損失額は、損失を生じた直前の時価により計算します
が、計算が困難なときは、便宜的に簡易な計算方法があ
ります。
また、災害に関連して支出した費用も損失額に含めることがで
きますが、領収書が必要となります。
(4)個人住民税における災害減免について
対象となる被害の程度及び減免割合等
@ 納税者本人が死亡した場合‥‥‥全額を免除
A 納税者本人が障害者になった場合…・‥10分の9を軽減
B 納税者の所有(居住)する家屋や家財等に損害を受けた場合
前年中の所得金額
C 納税者の住所以外の場所に有する事務所等に災害を受け商品
等に損害がある場合
留意点
(1)平成6年分の所得税の確定申告書は、住民税では平成7年度申
告書となります。
(2)平成7年度住民税(通常の提出期限:平成7.3.15)で災害
減免扱いをされている方は、平成8年度住民税で「雑損控除」の
適用ができます。
(3)災害減免法(所得税)または雑損控除の簡易計算では、り災証
明書での「半壊」は50%として取り扱われていますが、住民税の
災害減免扱いでは、50%未満に該当するため、住民税の計算に際
して注意を要します。
(4)住民税における雑損控除の計算は、所得税と全く同様に簡易計
算も適用されます。
(5)平成8年度住民税申告で雑損控除の適用を受ける場合は、所定
の申告書にて平成8年3月15日までに市町村に提出する必要があ
ります。
課題事項
(1)地方税法第317条の3によると、平成7年度住民税申告書で雑
損控除の適用をしない旨の申告書を提出する場合や、平成8年度
住民税申告書で雑損控除の適用を受ける場合は、所得税確定申告
書の提出日前に住民税申告書を提出しなければならないこととな
っており、適用を受けられないケースもありました。
(2)平成7年度の住民税については何ら申告せず雑損控除の適用を
受けている場合、地方税の規定からは、平成8年度住民税の申告
に際し、平成7年度住民税における雑損控除をとりやめ、災害減
免扱いとして、改めて平成8年度住民税において雑損控除の適用
を受けることはできないこととされています。
しかし、被災地の市町においては、その選択の変更を認める扱
いをしているところもありました。
国税と異なり、地方税は各市町の取扱いが様々で、納税者間の
不公平が生じるため、市町村からの広報通知等による納税者への
周知徹底が望まれます。
また、制度そのものが複雑で制度の整備を行い、誰にでもわか
る規定にしてもらいたいものです。
49.住民税の申告期限の延長と徴収猶予
給与所得者ですが平成6年分の所得税確定申告書の提出を延
長していますが、住民税につき平成7年度の特別徴収の決定通
知がきました。住民税については、申告期限の延長や徴収猶予
の取扱いはないのですか。
要旨
住民税の申告及び納付の期限の延長を希望する場合、条例に基づき
平成8年3月15日まで延長することができます。
また、延長した結果、一括納付が困難な納税者は、地方税法第
15条に基づく徴収猶予を受けることもできます。
解説
たとえば神戸市は、判明している所得(例えば給与所得)を基に
課税し、平成7年度の市民税について特別徴収は7月に、普通徴収
は8月に決定通知を出しています。
ただし、住民税の期限を延長する場合、現在特別徴収されている
場合も、納税義務者である本人が、所轄の区長宛に所定の「市税に
関する期限の延長申請書」にて申請することにより、申告及び納付
の期限を平成8年3月15日まで延長することができます。
留意点
所得税の確定申告書を提出したが税務署でその処理が保留されて
いる場合にも、区長宛に延長申請書を提出する必要があります。
課題事項
自治省税務局より各都道府県税務課税制担当係長及び地方課税制
担当係長に対し、平成7年3月中旬頃「申請に基づく申告等の期限
延長の取扱いについて」の事務連絡があったにもかかわらず、判明
している所得(例えば給与所得)を基に課税したようです。
このような取扱いについては、市町村において税に関する広報等
により、もっと納税者に対し周知させるべきであったと思われます。
50.住民税の雑損控除と災害減免
阪神・淡路大震災により自宅が半壊(り災証明書による判定)
になりました。自宅の所有者は父ですが同居の子どもにも雑損控
除または災害減免の適用があると聞きました。
その子どもは平成6年分の所得税及び平成7年度の住民税の申
告は行わず平成7年分の所得税の確定申告で災害減免法の適用を
受けました。平成8年度の住民税の申告の手続きは何もしません
でした。その結果、平成7年度及び8年度の神戸市より届いた住
民税の通知書には何の減免もされていませんでした。
この場合、住民税で雑損控除または災害減免の適用は受けられ
るのでしょうか。
要旨
このケースでは、残念ながら平成7年度の住民税の申告において
災害減免を適用していませんので、平成8年度において雑損控除し
か適用できないことになります。
解説
(1)本来、平成7年度の住民税において災害減免の申請をするか、
または雑損控除の申告をすれば適用されます。さらに、平成7年
度において災害減免の申請をした場合は平成8年度では雑損控除
の適用があります。平成7年度において災害減免の申請をする場
合の期限は、平成8年3月31日(神戸市の場合)までにすること
になります。
(2)本事例の場合、本来であれば平成7年度の住民税では職権によ
り災害減免が受けられます。そのうえで平成8年度では住民税の
申告をすれば雑損控除の適用があります。
ところが、今回の大震災で神戸市は職権による災害減免の適用
を、平成7年2月24日までに減免要件に該当すると判断できた個
人についてのみ行い、平成7年2月25日以後に減免要件に該当す
ることが判明した個人については、その個人からの減免申請によ
り減免の適用を行っています。
したがって、本事例の場合、平成7年2月24日までに減免要件
に該当するかどうかの判断ができなかったため、神戸市では何ら
の処理もしていなかったものと考えられます。個人が減免申請
を、平成8年3月31日(本来の減免申請期限は平成7年3月31日
であるが、神戸市では期限を1年延長しています。)までにする
ことにより適用されます。
留意点
(1)住民税の場合、災害減免は職権により適用できることとされて
います。
(2)住民税の場合〔事例48〕のように災害減免と雑損控除の両方の
適用があります。
(3)平成6年分の所得税の確定申告で雑損控除も災害減免も適用し
なかった場合、平成8年度の住民税において雑損控除の適用しか
受けられないことになります。
課題事項
住民税の災害減免と雑損控除の適用については、平素はあまり取
り扱われない問題であり、現場でもかなり混乱しました。また、今
後このような大災害の場合、災害減免と雑損控除の両方を適用でき
た者とできなかった者との間での不公平がないように条例の整備が
望まれます。
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