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16.災害関連支出と適用年分
自宅が半壊したため、簡易計算による雑損控除を適用し、
平成6年分の確定申告書を平成7年5月31日に提出しました。
平成7年中に構築物の緊急な倒壊防止費用として 500万円を
支出しましたが、その内 300万円は、平成6年分の申告書提
出日の前日までに支払っていました。この 300万円は、何年
分の災害関連支出として申告すればよいのでしょうか。
要旨
平成7年分で災害関連支出として500万円を申告することとなり
ますが、平成6年分の確定申告書の提出目の前日までに支払った
300万円を申告済の損失額に加えて平成6年分の「更正の請求」を
することもできます。この場合、残額の200万円については、平成
7年分の災害関連支出として申告することとなります。
解説
簡易計算で損害額を計算する場合構築物等の、緊急な倒壊防止費
用の支出は本体の損失と関係のない、やむを得ない支出ですから、
その支出した年分で災害等閑連支出として雑損控除の対象とするこ
ととなります。また平成6年分の確定申告書の提出の目の前日まで
に支出した金額についてもこれにも含めてもよいこととされていま
す。ただし、これらの損失の金額のうち保険金、損害賠償金その他
これらに類するものにより補てんされる部分の金額は除かれます。
(震災特例法令3@)
留意点
(1)災害等閑連支出の適用が2年に及ぶと、控除額の足切りを2回
受けることとなり、納税者にとって不利になる場合もあります。
(2)災害等閑連支出は、災害のやんだ日から1年以内に支出したも
のに限られています。
(3)今回の震災では、住宅の撤去費用を市が公費負担をしています
ので支出した撤去費用から控除する必要があります。
17.災害関連支出と負担者
この震災で自宅(土地・建物共に父が所有)が半壊となりま
した。建物本体の修繕費は父が負担しましたが、塀等の構築物
の被害が大きく非常に危険な状態でしたので、資金の都合で緊
急な倒壊防止費用として生計を一にする長男が負担しました。
父は簡易計算で雑損控除の申告をしますが、この長男が負担
した緊急な倒壊防止費用は父の雑損控除に加えて申告すればよ
いのでしょうか。それとも負担した長男の雑損控除の対象とす
べきでしょうか。
要旨
緊急な倒壊防止費用は災害関連支出に該当しますので、その費用
を負担した長男の雑損控除の対象となります。
解説
雑損控除の対象となる災害関連支出は、納税者本人が支出したも
のに限られています。したがって、その納税者と生計を一にする親
族等が支出したものは含まれず、その支出した者の雑損控除の対象
となります。
(「災害に係る申告所得税の取扱い」大阪国税局所得税課)
留意点
(1)災害により建物等が倒壊して第三者に損害を与えたような場合
に支出した損害賠償金等も、災害関連支出として雑損控除の対象
となります。(所基通72-6より70-8を準用)
(2)災害により保管していた第三者の物品に損害が生じたような場
合に支出した損害賠償金等も、損害関連支出として雑損控除の対
象となります。(所基通72-6より70-8を準用)
18.災害関連支出と災害がやんだ日
「災害関連支出」として、雑損控除の対象となるのは「災害が
やんだ日の翌日から1年を経過した日の前日までにした……
支出」であることが、所令206条で規定されていますので、
「災害がやんだ日」とされる日がいつかによって、雑損控除の対
象となる金額が変わります。これについては、どのように考え
たらよいのでしょうか。
要旨
災害による直接の被害がやんだ日を指すと考えられますので、原
則としては平成7年1月17日当日をもって、「災害がやんだ日」と
されています。しかし、個別的には、17日以後も延焼中であったと
か、余震により被害が拡大したとかの事実が多く発生していたと推
測されますから、その場合は、最も遅れて発生した災害のやんだ日
ということになるでしょう。
解説
近畿税理士会平成8年1月5日発行の「阪神・淡路大震災に係る
所得税関係質疑応答集」の問28(災害のやんだ日とはいつの日をい
うのか)の質問に対して、「原則的には、平成7年1月17日をい
う。ただし、余震によっても被害を受けた場合には、『災害のやん
だ日』は、余震により被害を受けた日となる。」と回答していま
す。これは、税務当局の見解をそのまま表現したものであって、改
めて「原則的には、平成7年1月17日をいう。」の意義について税
務当局にその意向を確認したところ、
(1)平成7年1月17日と明示したのは、国税通則法上の「理由のや
んだ日」に混同している場合が多く見受けられたことから、雑損
控除における取扱いと峻別する必要があったためである。
(2)平成8年1月18日以後の支出をすべて災害関連支出と認めない
のではなく、多少の余裕をみる意味を含めて、「原則的には」と
表現したものである。
(3)被災各署においては、平成7年分の確定申告期限である平成8
年3月15日までに支出されたものについては、弾力的に取扱って
いる。
(4)平成8年分以降の取扱いについては、個々の事情によって対応
している。
ということでした。
(1)については、国税通則法第11条における、申告期限の延長につ
いて、「理由のやんだ日から2月以内に限り」国税庁長官等が申告期
限等を延長できる旨の規定があります。また、国税通則法第46条に
おける納税の猶予の要件等について、「その災害のやんだ日から2
月以内にされたその者の申請に基づき、その納期限から1年以内の
期間を限り、……納税を猶予することができる」という規定にも、
同様の表現が用いられています。
留意点
災害のやんだ日の翌日から1年を経過した日の前日までにした支
出(災害関連支出)のみが所得控除できることとされていますが、
所得税基本通達 72-5は「災害のあった年の翌年3月15日以前に支
出した金額が当該被害等のあった年分……とすることができる。」
としております。しかし、今回の震災による措置では平成8年3月
15日までに見積書等で確認できる場合にはこれを認める取扱いとな
っています。
課題事項
「災害のやんだ日」については、災害が発生し、物理的被害が事
実上治った直近の日とする見解が多数のようです。この場合、納税
者側の主観的状況は考慮されるべきではないというのが原則でしょ
うが、仮に、個々の納税者がその支出をしようにもでき得ない事情
がある場合はどうかという問題があります。すなわち区分所有の建
物が一部破損した場合でその建物を再建をするためには全員一致の
要件を満たした解体決議が必要ですし、また解体費用を支出するに
当り、費用分担をどうするか等の関係者間の調整等が必要です。し
かも今回のように広域的に大災害が発生した場合、このような支出
は長期化することが容易に予想されます。したがって、こういう実
状を踏まえた宥恕規定を設けることなどを検討すべさだと思われま
す。また、このような大震災を想定して法律が制定されていないも
のと思われますが、次のような批判があります。
(1)災害発生日が即、やんだ日ではあまりにも非常識ではないか。
(2)平成7年1月17日は、災害が起った日、あるいは始まった日
(社会的な私書が始まった日)ではないか。
(3)余震の警告が出ていたので、災害がやんだ日という認識はなか
った。
(4)なぜ、平成8年1月5日(1年近く経ってから)にもなってか
ら発表したのか。
(5)今回のような大震災の場合は、ライフ・ラインの復旧、あるい
は復旧活動が行えるような交通網の回復をもって災害がやんだ日
というべきではないのか。
19.雑損控除適用後の擁壁の修復費用
この震災で自宅のマンションが被害を受け、簡易計算による
雑損控除を適用し平成6年分の確定申告書を平成7年5月31日
に提出しました。ところが、平成7年6月になって、マンショ
ンの背後の擁壁部分の地割れが次第に大きくなり、危険な状態
になってきました。修復のために管理組合が業者に見積りをし
てもらったところ、1戸当たり500万円の負担となるそうです。
このような建物以外の構築物の被害が大きい場合、すでに提出
した平成6年分の雑損控除額を訂正するのですか。それとも、
この修繕費を支払った年で申告するのでしょうか。
要旨
擁壁が、土地か減価償却資産かの議論は別として、緊急な倒壊防
止費用は私書関連支出に該当しますので、資本的支出を除く原状回
復費用は支払った平成7年分の確定申告で災害関連支出として雑損
控除を適用することができます。ただし、その支出した日が平成6
年分の申告書の提出目の前日までであれば、平成6年分の雑損失と
して更正の請求をすることもできます。
解説
所基通38−10は「‥‥土地についてした防壁、石垣積み等であっ
ても、その規模、構造等からみて土地と区分して構築物とすること
が適当とみとめられるものの費用の額は、土地の取得費に算入しな
いで、構築物の取得費とすることができる。」としていますので、
必ずしも擁壁等にかかった費用は土地の取得費に算入しなければな
らないとはいえません。
なお、土地の地震による価値の下落は、雑損控除の事後損失額と
認識しないこととされていますが、災害関連支出としては手当てさ
れています。
参考
原状回復のための費用の計算
納税者から塀等の構築物または土地に被害があったが具体的に計
算できない場合には、次のようにその損害額を算定してもよい。
イ.塀等の構築物の損害等の計算
塀等の構築物に被害を受けた場合の原状回復のための費用を災
害関連支出の額とする。ただし、震災特例法により、平成6年分
の雑損控除の対象となる災害関連支出は、平成6年分の確定申告
書を提出する日の前日までに支出したものに限られる。
なお、原状回復のための費用を工事着手の遅延等により確定申
告書提出前に現実に支払っていないときは、その費用の見積額を
もって、資産本体の損害額とみて、雑損控除の適用することがで
きる。
ロ.土地の損害額の計算
住宅の敷地であった土地(以下「宅地」という。)に被害(地
割れ、沈下、隆起、がけ崩れ及び液状化現象等)を受けた場合の
原状回復のための費用を災害関連支出の額とする。ただし、震災
特例法により、平成6年分の雑損控除の対象となる災害関連支出
は、平成6年分の確定申告書を提出する目の前日までに支出した
ものに限られる。
なお、原状回復のための費用を工事着手の遅延等により確定申
告書提出前に現実に支払っていないときは、その費用の見積額を
もって、資産本体の損害額とみて、雑損控除の適用することがで
きる。
また、土地を修復したことにより、宅地の面積が増加したこと
による土地の増加部分の費用及び未舗装地に新たに舗装したこと
による舗装費用等については、損害額には含まれない。(近畿税
理七会阪神大震災救援対策本部作成資料より)
20.見積り修繕費と平成8年1月17日以降
支出修繕費
雑損控除の適用を実額で計算する予定ですが、平成8年1月
16日までに費用の支払いをしないと雑損控除の適用は受けられ
ないと聞きました。修繕の見積書を工務店に発行してもらうこ
とはできるのですが、平成7年分の確定申告の際、この修繕費
の見積り額をもって雑損控除をすることはできますか。
また、平成8年1月17日以降に行った修繕の費用については、
平成8年分以降で雑損控除の適用は受けられないのでしょうか。
要旨
その損失が資産本体にかかるものであれば、修繕費の見積り額を
もって雑損控除の適用を受けることができます。
雑損控除は、その災害等による損失が生じた年分の所得税につい
て適用されるものですから、その損失が資産本体にかかるものであ
れば、平成8年分以降で雑損控除の適用を受けることはできません。
解説
阪神・淡路大震災による被害が、広範な地域にわたり、同時・大
量・集中的に、かつ、平成6年分の所得税の確定申告前(平成7年
1月17日)といった特殊な時期に発生したこと等を踏まえ、被災者
の負担の早期の軽減を図る等のため、被災者の住宅・家財等につい
て生じた損失については、平成6年分に生じたものとして雑損控除
ができる特例が設けられました。
しかし、災害関連支出においては、その災害のやんだ日の翌日か
ら1年を経過した日の前日までにした支出(所令206)とされ、特
例は設けられていませんが、今回の場合、平成8年1月17日以降に
支出された災害関連支出の取扱いについては弾力的に取扱われてい
るようです。個別に税務署に確認されるとよいでしょう。
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