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1.生計を一にする親族の雑損控除
母が、震災による自宅の全壊で死亡いたしました。一人娘の
私はサラリーマンの妻で夫の配偶者控除の対象となっており、
母とは別世帯でした。全壊した住宅は母の所有でしたが、この
損失を夫の損失として雑損控除の適用を受けることはできませ
んか。
要旨
お母さんの平成6年分の所得が35万円(あるいは平成7年分の所
得が38万円)以下で、被災日現在、ご主人と生計を一にする親族に
該当すれば雑損控除の適用を受けることができます。
解説
震災特例法で阪神・淡路大震災により生じた損失金額は、平成6
年に生じた損失とみなして、雑損控除の適用を受けることができる
こととされました。
震災特例法による雑損控除を適用する場合にその適用を認められ
ることとなる親族に該当するかどうかは、平成7年1月17日におい
て自己と生計を一にする親族の平成6年分の所得金額が35万円以下
であるかどうかにより判定します。また震災特例法を適用しないで
平成7年分で雑損控除の適用を受ける場合には、震災により損失の
生じた日または災害関連支出の金額を支出した日において自己と生
計を一にする親族の平成7年分の所得金額が38万円以下であるかど
うかにより判定します。(震災特例法令2及び所令205)
また、震災特例法による雑損控除の対象となる資産は、通常の雑
損控除の対象となる資産の範囲と同じです。したがって、居住者ま
たはその者と生計を一にする上記に該当する親族の有する住宅家財
等の生活に通常必要な資産(生活に通常必要でない資産及び被災事
業用資産を除く)が対象となります。(所法72)
もし、お母さんの平成6年分あるいは、平成7年分の所得がそれ
ぞれ35万円、38万円超の場合は、お母さん自身が確定申告で雑損控
除の適用を受けることとなります。あなたの場合、お母さんは亡く
なっておられますから、仮りに損失額が大きく「雑損失の繰越額」
が生じたとしても、平成8年分へ繰り越すことも、ご主人の申告に
引き継ぐこともできません。しかし、お母さんの死亡は1月17日で
すから、平成7年分の所得が38万円以下と推定しますと、震災特例
法を適用せずに平成7年分のご主人の申告で雑損控除の適用を受け
ることができると思われます。
留意点
震災特例法による雑損控除の対象となる損失は、今回の震災によ
る損失に限られています。したがって、通常の雑損控除で適用対象
となる「盗難」または「横領」による損失は、対象とはなりません。
課題事項
平成7年中に死亡したり廃業した青色申告者については、平成6
年分からの繰越純損失が平成7年分で控除しきれない場合、平成5
年分に繰戻して「繰戻し還付請求」を行うことができます。
(所法140@D及び所法141C)
災害時または災害の後に死亡した納税者の所得が、基礎控除額を
超え、雑損失も多額で、その準確定申告だけでは控除仕切れないと
きは、白色申告者であっても、また一般の納税者の場合も「繰戻し
還付請求」ができるようにするか、相続人に「繰越控除」を認める
かのいずれかの方法によりこの損害額を補てんする措置が必要と考
えます。
2.同居の親子における雑損控除
この震災で、父と私が同居していた父所有の住宅が半壊しました。
(1)平成6年分の父の所得は147万円で、扶養親族に該当しません。
(2)平成7年分は父に所得がないため、扶養親族に該当します。
私は平成6年分で家財の雑損控除の申告をしました。また、平
成7年5月に住宅を補修しましたので平成7年分で簡易計算によ
る雑損控除の申告をしました。
なお、父は平成6年分の雑損控除の申告はしていません。
ところが、税務署より「平成6年分で雑損控除の適用を受けた者
は平成7年分では損害はなかったものとみなし、雑損控除の適用
はない。」と言われました。
平成7年分では認められないのでしょうか。
要旨
あなたと、お父さんのどちらも震災特例法を選択して平成6年分
で雑損控除の申告をすることも、また、お父さんを扶養親族として
あなたが平成7年分で雑損控除の申告することも可能です。ところ
があなたが震災特例法を選択して平成6年分で申告をしております
ので、平成7年分では雑損控除を受けることはできません。ただ
し、補修費で災害関連支出に該当する部分については、平成7年分
で雑損控除を受けることも可能です。
お父さんは扶養親族としてではなく平成6年分、あるいは平成7
年分(所得がないために控除できない)で申告をするかいずれかの
選択となります。
もし、あなたもお父さんも震災特例法を選択せずに、あなたが平
成7年分で雑損控除の申告をしていれば、お父さんはあなたと生計
を一にする親族となり、扶養親族として雑損失の金額があなたの所
得から控除されていました。
上記は雑損控除の事例ですので、若干、災害関連支出について触
れておきます。
災害により住宅家財等が損壊しまたはその価値が減少した場合、
その他災害により当該住宅家財等を使用することが困難となった場
合には、その災害のやんだ日の翌日から1年を経過した日の前日ま
でに支出した当該住宅家財等の原状回復のための支出(その災害に
より生じた当該住宅家財等の損失の金額に相当する部分の支出を除
く。)は災害関連支出として所得控除することができます。
(所令206@ニロ)
したがって、もしあなたが支出した住宅の補修費の内、損失額を
超える部分があれば、その住宅がお父さんの所有であっても災害関
連支出としてあなたの平成7年分の所得から控除することが可能と
も考えられます。
また、震災特例法による雑損控除を適用する場合に、その適用を
認められることとなる「親族」に該当するかどうかは、平成7年
1月17日において自己と生計を一にする親族の平成6年分の所得金
額が35万円以下であるかどうかで判定します。もし、震災特例法を
適用しないで平成7年分で雑損控除の適用を受ける場合には、震災
により損失の生じた日または災害関連支出の金額を支出した日にお
いて自己と生計を一にする親族の平成7年分の所得金額が基礎控除
額38万円以下であるかどうかにより判定します。
(震災特例法令2及び所令205)
留意点
震災特例法は、阪神・淡路大震災により住宅及び家財に被害を受
けた者について認められていますので、同一生計内に所得者が2人
以上いる場合には各々の所得者が震災特例法を適用するかしないか
を選択することができます。この場合、家財の損害額について簡易
計算を適用する基となる総所得金額は、震災特例法の適用の有無に
かかわらず平成6年分の総所得金額となります。
課題事項
今回の震災は突発的で、また被害も甚大であったため、雑損控除
の適用を巡って多くの人が混乱しました。そのため、還付を急ぐあ
まりに十分な検討をせずに申告書を提出してしまったという例が多
数あったようです。本事例でも、平成7年分で家財と父所有の住宅
の損失について、簡易計算による雑損控除を適用することによっ
て、もっとも有利となりました。取り扱いについては、納税者に有
利・不利を選択する時間的余裕を与え、また変更を認めるなど不公
平のないような配慮が必要であったと思います。
参 考
現行法の雑損控除 | 震災特例法の雑損控除 | |
損失の
発生原因 |
災害、盗難、横領による
損失が対象となる。
|
阪神・淡路大震災による
損失に限られる。
|
対象となる
資産の範囲
|
生活に通常必要な資産に
限られる。 棚卸資産や事業用の 固定資産、山林、生 活に通常必要でない 資産は除かれる。 |
同 左 |
控除額の
計算
|
控除額は次の@とAのう
ちいずれか多い方の金額 @差引損失額一 所得金額の10分の1 A差引損失額のうち 災害関連支出の金額− 5万円
|
同 左 |
損失の
控除年分
|
平成7年分の所得金額か
ら控除する。
|
選択により、平成6年分 の所得金額から控除する ことができる。 |
損失の
繰越控除 |
平成8年以後3年間にわ
たって控除することがで きる。
|
平成7年以降3年間にわ たって控除することがで きる。 |
添付書類等
|
●「損害を受けた資産の
明細書」を確定申告書 に添付する。 ●災害等に関連してやむ を得ない支出をした金 額についての領収書を 確定申告書に添付する か、確定申告書を提出 する際に提示すること が必要である。
|
同 左
同 左
|
そ の 他
|
災害減免法の所得税額の
軽減免除の規定の適用を 受けられる場合には、い ずれか有利な方を選択す ることとなる。
|
同 左 |
3.簡易計算の法的根拠
「住宅・家財等に対する損害額の簡易計算」の法的根拠はどこに
ありますか。
要旨
法令等の明文規定はありませんが、今回の震災が広範で甚大であ
ったこと、時価の算定が困難なことから、取り扱いとして大阪国税
局が発表したものです。
解説
国税庁は、平成7年2月14日に「阪神・淡路大震災に関する取り
扱いについて」の中で「所得税の雑損控除の適用に当たり、納税者
の便宜を考慮し、簡易な方法により損害額を計算できるよう取り扱
うこととする。」と述べています。また大阪国税局は、平成7年2
月17日付で「阪神・淡路大震災による損害額の簡易計算の概要につ
いて」と題する『損害額の簡易計算表』を発表しました。ここでは
「なお、この簡易計算は、あくまでも納税者の便宜を図るための措
置であり、これによることが実情に合わないという方については、
個々の住宅家財等の損害額を計算しても差し支えない。」とし、簡
易計算は便宜上の1つの指針であることを明示しています。
(注)損害額の簡易計算表は〔9〕資料の国税関係の項目を御参照
下さい。
課題事項
原則的には、雑損控除の対象となる損害額は、その資産が被害を
受ける直前の時価とその資産が被害を受けた直後の時価との差額と
なります。住宅・家財等について、被害直前の時価と被害直後の時
価を算定するのは実務上きわめて困難をともないます。しかし、簡
易計算を適用すれば、雑損失の額を容易に計算することができま
す。その点においては、『損害額の簡易計算表』の迅速な公表は十
分評価できるものです。
しかし、法令にも通達にもなく大阪国税局の単なる取り扱いとし
て発表されたことは、実務の現場で多くの問題を残しました。例え
ば、被害割合表と税務署による被害の事実認定とのズレなどがあり
ます。
4.新築後間もない自宅の簡易計算上の時価額
平成6年7月に4500万円で自宅を新築しましたが、この震災で一
部損壊となりました。軽量鉄骨でしたので、簡易計算によれば時価
額は1u当たり201千円ですが、取得価額は1u当たり280千円で
す。新築後僅か半年で被災しましたので直前時価4500万円から半年
間分の減価償却費(定額法で計算)を差引いた金額を被災直前の時
価として、その20パーセントを建物の損害額として申告できますか。
要旨
簡易計算においては、1u当たりの時価額の補正適用は認められ
ていません。したがって、簡易計算により計算した損害額が納税者
の被害の実情にそぐわない場合には、簡易計算を適用せず、個別に
損害額を計算(被災直前の時価から被災直後の時価を差し引いて計
算)することとなります。
解説
住宅・家財等の計算については、被害のあった時の時価を基礎と
して個別に計算することとなっています。したがって、被災直前の
時価の算出方法はあなたの計算でよいのですが、この場合、被災直
後の時価も合理的に算出することとなります。
もし、損害を受けた資産について個々に損害額を計算することが
困難な場合には簡易な方法で計算することができますが、この場合
には時価額簡易表で計算することとなります。
課題事項
納税者にとって被害直後の時価を算出することは、大変困難なこ
とです。
住宅の時価額簡易表は、建築時期と建築構造によって大雑把に作
成されているため、個々の事情が取り入れられていないという不備
がありました。せめて1年ごとの建築単価(当時の物価を反映した)
で時価額簡易表が作成されていればもう少し現場での混乱が避けら
れたかもしれません。
しかし、被害直後の時価を算出することは、到底不可能なことで
すから、簡易計算による直前時価と、この事例のように合埋的に算
出された直前時価と比較して有利な方を選択し、当該住宅の被害割
合をもって計算でさるよう取り扱うべきであったと考えます。
参考
住宅の損害金額の計算及び家財の損害額の計算は、以下の計算式
による。
住宅の損害額=(住宅の価額×被害割合ー保険金等で補てんされ
た金額)×住宅の持ち分割合
住宅の価額は、「住宅時価額簡易表」に掲げる構造別、建築時期別
の1u当たりの価額【別表1】に延床面積を乗じた金額とします。
構造別、建築時期別の1u当たりの価額×延床面積
また、マンションにおける廷床面積については、専有面積にベラ
ンダの面積を加算した面積で計算します。
【住宅の時価額簡易表】
(1u当たり)
建築時期 | 木 造 | 鉄骨鉄筋
コンクリート造 |
鉄 筋
コンクリート造 |
鉄 骨 造 | コンクリート
ブロック造 |
年
平2〜平6 |
千円
175 |
千円
329 |
千円
258 |
千円
201 |
千円
156 |
昭60〜平元 | 158 | 316 | 248 | 190 | 148 |
昭55〜昭59 | 141 | 303 | 238 | 178 | 140 |
昭50〜昭54 | 124 | 290 | 228 | 166 | 132 |
昭45〜昭49 | 107 | 278 | 218 | 154 | 124 |
昭40〜昭44 | 90 | 265 | 208 | 143 | 116 |
昭39以前 | 73 | 252 | 198 | 131 | 108 |
5.簡易計算におけるマンションの共有部分
簡易計算による損失額の計算方法について、おたずねします。
マンションの共有部分の損害額は、「1u当りの築年による時価
額×延床面積×被害割合」によって計算した額に加算することがで
きるのでしょうか。
要旨
算式中の「1u当りの時価額」は専有部分と共有部分の両方を見
積った上で算出されている(平成7年7月24日緊急シンポジウムに
おける税務署の回答)ということですから、簡易計算を適用した場
合は、別途に共有部分を加算することはできません。
解説
マンションのような区分所有建物については、区分所有権の目的
となる部分(専用部分)とならない部分(共用部分)があり、共用
部分は所有関係では特殊な共有とされます。つまり、所有関係とし
ての専有共有と利用関係としての専用、共用はほぼ符合しますが一
部異なります。(建物の区分所有等に関する法律第2条、第4条)。
このうち、専用使用権のある部分とは、各区分所有者が専有する各
戸の内法面積部分と管理組合(自治会とは異なる各区分所有者の団
体、同第3条)の規約等によって認められた共有部分に対する専用
使用権(各戸前のバルコニーや駐車場スペースが一般的)をいいま
す。専用部分以外の境界壁、エレベーター等の共用部分は、一般的
には各区分所有者の専有面積比による共有とされています(規約に
よって、異なった定めも可能です)。そこで、専有部分の独立した
各戸の構造壁の壁に囲まれた内部は、専有者の責任で維持管理すべ
きものですから、その構造に係る損傷は、区分所有者全体の共用=
共有部分に属し、各区分所有者の団体である管理組合がその修繕の
任に当たることとされています。
これらのことから、規模によって異なる、共用部分の比や、ある
いは集会室やエレベーター等の有無などについての差異が考慮され
ていないとはいえ、簡易な計算方法を採用する側からすれば、区分
所有の建物の標準的な大きさや積算原価から1u当り単価を共用部
分を含めて算定していることについてはやむを得ないと思われま
す。したがって、別途、共有部分について計算することはできず、
すなわち更正の請求の事由を構成せず、災害関連支出にも該当しな
いものと思われます。
課題事項
画一的な簡易計算では、処理しきれない不公平感が存在します。
今後は、実情に即し細分化された適用区分を設けるなどの措置が必
要と思われます。
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