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56.相続税における土地の評価
 今回の大震災で貸家(土地も所有)が全壊しました。
 家主は、借家人に対して、この土地に新築する考えのない旨、
意思表示していましたが、大震災から約4カ月後に家主は死亡し
ました。
 そこで、相続人は、家主(被相続人)の意思(新築をしないこ
と)を継いで借家人にその旨を意思表示していますが、借家人は、
借地を要望しています。
 この場合、この土地の評価は、相続税の申告にあたり貸宅地と
して評価できないでしょうか。
 
要旨
 この土地は、もともと大震災前は貸家建付地に該当していたもの
と思われます。
 ところが、この土地は今回の大震災で貸家が全壊した後は更地と
なっているのは事実のようです。
 家主は更地となっている時点で死亡されています。相続税法上
は、不動産等の評価は相続開始時の時価によることとされています
ので、相続開始時の土地の現況は更地となっており、罹災都市借地
借家臨時処理法上の優先借地権も実現していないことから、貸宅地
としての評価はできないと思われます。
 
解説
 土地及び土地の上に存する権利の評価については財産評価基本通
達で取り扱いが定められています。
 土地には、自用地、貸宅地、貸家建付地など様々な利用形態があ
り、土地の現況がどの利用形態に該当するのかが問題になるところ
です。
 特に、今回の大震災の場合は建物が全壊・全焼などの被害が広い
地域にまたがっており、瓦轢の除去は終ったとしても、土地の利用
方法は罹災都市借地借家臨時処理法が適用されたり、被災市街地復
興特別措置法の規定による都市計画地域の指定などの法規制が図ら
れていたため早期に解決することは困難です。
 本事例の場合も、次のように家主と借家人との間で複雑な要因が
あります。
(1)家主側
  ●新築の意思がない。
  ●借家人に土地の買取りを要望。
(2)借家人側
  ●買取る資金がない。
  ●借地を要望。
そこで、条件付としてそれぞれの利用形態から考えてみることに
します。
 まず、自用地としての評価方法については、相続開始時点の現況
は更地となっていることから自用地として評価することが考えられ
ます。
 しかしながら、今回の大震災で罹災都市借地借家臨時処理法が適
用され借地権者、借家権者の保護が図られています。そのことを考
え合せると、たとえ相続開始時点は更地となっていても借家人は優
先借地権を有していることになります。
 仮に、相続開始前から土地の賃貸借契約を結び、権利金の授受が
あって、貸借が明らかになっていれば貸宅地としての評価方法も考
えられます。
 一方、もともと貸家建付地であり、全壊した貸家を再建築する家
主の意思が実証されるケースであれば、貸家建付地として評価する
ことも考えられます。
 
課題事項
 罹災都市借地臨時処理法は、借家権の保護のために借家人に優先
借地権を認めている主旨からすれば、罹災後、優先借地権による借
地権設定が行われるかどうかが判明するまでは、旧来の借家権の設
定があるものとして取扱われることが税務上望ましいものと考えま
す。
 
57.相続税における借地権の評価
 今回の大震災で借地上の居宅が全壊し、同時に借地人(被相続
人)も死亡しました。
 相続人は、この借地上に居宅を新築するための資力がないため、
土地の所有者からの立退きの要求に応じました。土地の所有者と
の交渉の結果、相続税の申告期限までに立退料として1億2千万
円を受けとりました。
 ところが、財産評価基本通達により計算しましたところ借地権
の評価額は2億4千万円となります。
 借地権の評価は、相続税の申告にあたりどのようにすればよ
いでしょうか。
 
要旨
 借地上に自己の建物を所有していれば当然借地権を有することに
なります。
 また、借地権者である借地人が死亡したとしても罹災都市借地借
家臨時処理法により借地権は消滅しないことになります。
 ところで、相続税法上は、相続により取得した財産の価額は、当
該財産の取得の時における時価によると規定されています。
 しかしながら、その時価がいくらであるかが問題となります。本
事例の場合、受け取った立退料の額を時価と考えるならば当然立退
料の価額が借地権の時価となります。
 
解説
  借地権の評価は一般に通常の売買取引による場合の更地価額に
借地権割合を乗じて算定されるのですが、この借地権割合は、近隣
における借地権設定取引の事例や、国税局の定める借地権割合等を
参考にされています。
ところで、本事例の土地の現状は、災害による地下の下落、また
は、被災市街地復興推進地域内等には該当せず、他から拘束される
ような条件はいっさいないことから財産評価基本通達により評価す
べきと考えられます。
  しかしながら、仮に財産評価基本通達によって評価した借地権の
価額で申告をした場合、借地権の消滅の対面として受けとった立退
料の額との差額は永久に相続人は受けとることができないことにな
ります。
 そうすると、受けとった立退料の額を時価とみるのが妥当と思わ
れます。
 
留意点
立退料を受け取った場合における所得税の所得区分は、所得税基
本通達で次のように取扱うこととされています。
(1)一時所得
   借家人が、賃貸借の目的とされている家屋の立退きに際し受ける
 いわゆる立退料。(所基通34-1(7))
(2)譲渡所得
   借家人が、賃貸借の目的とされている家屋の立退きに際し受ける
 いわゆる立退料のうち、借家権の消滅の対価の額に相当する部分の
 金額は、所令第95条(譲渡所得の収入金額とされる補償金等)に規
 定する譲渡所得に係る収入金額に該当します。(所基通33-6)
   また、借地権の消滅の対価の額に相当する部分の金額も所令第95
 条に規定する譲渡所得に係る収入金額に該当します。
 
58.マンションを建替えした場合の贈与税
 阪神・淡路大震災で甲(個人)所有のマンションが全壊し建て
替えることになりました。
 甲は高齢で建替資金がなく、甲の長男乙が資金を出すことにな
りました。
 マンションの登記は敷地利用権者と建物所有者は同一でないと
出来ないということですが、建物の登記を乙にした時、乙は増与
税の申告が必要ですか。
 
要旨
 原則として、甲の長男乙が資金を出して甲所有のマンションを建
て替え乙の名義にした時は、乙が甲からマンションの敷地利用権の
贈与を受けたことになり、乙は贈与税の申告が必要です。
 ただし、解説にあるような要件が満たされておれば、甲から
乙への敷地利用権の贈与はなかったものとして取り扱われます。
 
解説
 本事例は、高齢な親である甲が銀行から高齢を理由としたり、所
得金額を基準として借入ができない場合に起こります。
 昭和58年の区分所有法改正により、マンションの敷地が建物の専
有部分と一体化され、原則として、マンションの専有部分とその敷
地の共有部分とを分離して登記、処分することができなくなりまし
た。
 これは、建物と土地が別個の不動産として扱われますと、建物の
専有部分は建物の登記簿に、土地の共有部分は土地の登記簿にとい
う様に別冊の登記簿に登記されます。このようなことになるとある
所有者の土地の権利関係を調べようとすると、関係のない他の共有
者の登記の中からピックアップしなければならず、公示機能が損な
われます。登記制度の持っている公示機能を回復させる目的で昭和
58年の区分所有法改正が行われました。
 登記面からの束縛でマンションの建物の敷地利用権と建物が甲と
乙とで登記できなければ本事例のようなことが起こりますが、今回
の震災に関しては次の事項を記載した「申立書」を税務署に提出す
ることにより、贈与税の課税は行わないこととして取り扱われます。
 @ 阪神・淡路大震災により被災したマンションの再建のみを目
  的とした登記であること。
  A 資金関係を明確に記した書面を添付し、再建に当り資金は乙
  が負担したこと。
  B  敷地利用権は引き続き甲が有するものであり、相続が発生し
  た時は、敷地利用権のみが甲の相続財産(更地評価)となること。
  C  甲が引続き同マンションに居住すること。
 
留意点
 上記解説にあるような4項目を記載した「申立書」を登記後、
速やかに税務署に提出して下さい。
 
課題事項
 このような事例は相当数あると思われるので、税務署は個別に対
応するのではなく、「申立書」を様式化し公開することが望まれます。
 
59.被災土地のみなし譲渡
 阪神・淡路大震災で崩落の危険性ありと神戸市から勧告を受け
た宅地の所有者A(個人)が、高齢と資金難のため、宅地の改修
工事を行えない旨を神戸市に申し出ました。このままAが引き続
き宅地を放置すると、責任問題が生ずる恐れがあります。
 そこで、申出時に、その宅地を神戸市に寄付をすることにしま
したが、宅地が無道路地である等の理由で神戸市から寄付を受け
ることが出来ないと断られました。
 Aは改修工事を行ってくれる相手をさがし、法人Bに宅地を無
償で贈与することを条件に、Bが改修工事を行うことになりまし
た。
 AとBは、特殊関係者ではありません。
 この時、Aはみなし譲渡課税、Bは土地の無償取得益でそれぞ
れ申告が必要ですか。
 またBが個人の場合は贈与税の申告が必要ですか。
 
要旨
 所得税法第59条によれば、個人が法人に譲渡所得の基因となる資
産を贈与した場合は、贈与した時の価額により、資産の譲渡があっ
たものとみなすとされています。
 この事例は、無償でAがBに贈与していますので、Aはみなし譲
渡課税を、Bは土地の無償取得による受贈益をそれぞれ申告するこ
とになります。
 Bが個人の時は贈与税の申告が必要です。
 
解説
 本事例は、資力のない高齢者が、神戸市から宅地の改修工事命令
をうけたが、自分では市の意向に添えないので、善意の第三者をさ
がした時の本人と第三者の課税関係です。
 平時であれば起こりえない、あるいは起こり難い事例です。
 個人Aは長年住んでいた土地を手放さなければならないという問
題があります。
 法人Bは将来その土地を譲渡するとしても、一時的には改修費用
と土地の受贈益に対する税金の出費があります。
 所得税法第59条がある限り、A、Bそれぞれ課税はされますが、
市の改善命令が出るような土地の時価をどのように決定すればよい
かの問題は残ります。
 Aが他人(含法人)に土地を譲渡するに際し、譲渡した代金で土
地の改修工事をした時は、譲渡に要した費用になります。
 Bは、改修費用を土地として貸借対照表に表示して建物を建てな
かった時は、新規取得土地等に係る負債の利子の課税の特例(措法
第62条の3)も適用されます。
 Bが個人の場合も同様に時価をどのようにきめるかの問題は残り
ます。
 
留意点
(1)震災による本事例の場合は、Aにみなし譲渡課税、B(法人)
   に土地の受贈益、またBが個人の場合は贈与税がそれぞれ課税さ
   れますので、時価の評価がきわめて重要となります。
(2)Aの所有地は市も寄付を受けないし購入者もいない。無償なら
   受けましょうという法人Bがあるのみです。復旧費用が相当額予
   想されるこのような状況下では、売買の価額が決まらないので、
   時価をゼロとみることができないのでしょうか。Bが個人の場合
   の贈与税の課税価格もゼロとすることができないでしょうか。
 
課題事項
 本事例のような場合は、震災特例として、国税の所得税、法人税、
贈与税、登録免許税、地方税の不動産取得税、固定資産税を非課税
ないしはそれに近い対応が望まれます。
 
60.法人の災害損失特別勘定
 震災により工場の建物と機械が損壊しました。災害損失特別勘
定の繰入れを行いたいのですが、当社は3月決算ですので、工事
依頼先の建設業者が早急には決まりません。自社で修繕費を見積
ったところ1000万円となりましたが、自社の見積額でも差しつか
えありませんか。また、機械はリース物件ですが、特別勘定の繰
入れはできるでしょうか。
 建設業者が決まり次第、補修したいのですが、翌事業年度に修
繕費として800万円を支払った場合の処理も教えて下さい。
 
要旨
 建築業者等による見積額ではなく、自社の社員等が計算した見積
額であっても合理的なものであればその見積額を基礎として災害損
失特別勘定へ繰入れをすることが認められます。
 また、リース物件である機械の補修については、リース契約によ
り補修等の義務が貴社にあれば特別勘定の繰入れは可能です。
 翌事業年度に修繕費を支払った場合は、その修繕費の金額を損金
の額に算入すると同時に災害損失特別勘定を取り崩して益金の額に
算入します。
 この場合、修繕が完了しておらず、災害損失特別勘定の残額があ
る場合には、税務署長の承認を受けてその残額の益金算入時期を延
長することができます。
 以下にその仕訳を記載しておきます。
(平成7年3月期)
災害損失特別勘定繰入額1000万円/災害損失特別勘定1000万円
(平成8年3月期:修繕等が完了していない場合)
修繕費800万円/現金800万円
災害損失特別勘定800万円/災害損失特別勘定取崩額800万円
(平成8年3月期:修繕等が完了した場合)
修繕費800万円/現金800万円
災害損失特別勘定1000万円/災害損失特別勘定取崩額1000万円
 
解説
 原状回復のための修繕費等は、修繕を行った事業年度に損金とし
て計上することになります。しかしながら、今回の災害が甚大で、
早期に修繕が完了しないといった事情にあり、その結果、決算期に
よっては修繕等を余儀なくされることとなった損失の発生時期と実
際に修繕費用として計上する時期とが乖離することが考えられます。
 そこで、被災資産の修繕等のために要する費用で1年以内に支出
すると見込まれるものとして適正に見積ることができるものについ
ては、災害損失特別勘定に繰入れ、被災事業年度の損金の額に算入
することを認める制度です。
(1)制度の概要
 被災事業年度で、災害損失特別勘定に繰入れをし、損金の額に算
入することができる額は、次の金額になります。
 また、上記修繕費用等とは次のような費用をいいます。
  @ 被災資産の取壊し又は除去のために要する費用
  A  被災資産の原状回復のために要する費用(震災個別通達の
 「復旧費用」を含みます。)
  B 土砂その他の障害物の除去に要する費用その他これらに類す
   る費用
  C 被災資産の損壊または価値の減少を防止するために要する費用
    貴社のご質問のうち、その見積りを自社で行うことが震災通
   達3に規定する「合理的に見積る」ことになるのか否かという
   ことですが、震災通達3は例示規定であり、その方法が合理的
   であれば問題はないと考えられます。震災通達3には、
1.建設業者等による見積額
2.再取得価額若しくは建設省建築統計年報の建築価額等を基に計
 算される金額
 など、合理的に見積るものとする。
とあるからです。
 次に被災資産のうちリース契約により賃借している機械に対する
特別勘定の繰入れの可否についてですが、リース契約等により修繕
義務が賃借人である貴社にある場合に限り、当該特別勘定の繰入れ
は可能です。また、本来賃貸人に補修の義務がある場合であっても、
今回の震災の特殊事情により、今回に限り賃借人が補修しなければ
ならない事情も十分考えられると思いますが、このような場合にも
特別勘定の繰入れは可能と考えられます。
 ただし、これは従前の契約内容の変更が行われたのですから、当
然のことながらそのことを書面等で明らかにしておく必要があると
考えられます。
 3点日のご質問ですが、次に掲げる事業年度の区分に応じ、災害
損失特別勘定の金額のうちそれぞれに掲げる金額を益金に算入して
下さい。
  事 業 年 度  金     額
    イ 災害のあった日から1年 
を経過す日の属する事業年度(以下「修繕完了事業年度」という)前の各事業年度 
当該各事業年度において被災資産に係る修繕費用等として損金の額に参入した金額の合計額(保険金等により補てんされた金額がある場合には、当該金額の合計額を控除した残額)
         ロ 修繕完了事業年度  修繕完了事業年度終了の日における災害損失特別勘定の金額
 ただし、被災資産に係る修繕等がやむを得ない事情により修繕完
了事業年度の終了の日までに完了しなかったため、同日において特
別勘定の残額がある場合には、税務署長に「災害損失特別勘定の益
金算入時期の延長確認申請書」を提出し承認を受けたときは益金算
入時期が延長されます。
 
留意点
(1)災害損失特別勘定は、確定決算または、中間決算で「経理」す
   ることが要件となります。
     したがって、申告調整による損金算入は認められません。
   ただし、損金経理の要件になっていませんので、利益処分によ
   る繰入れも可能と考えられます。(震災通達2)
(2)修繕費用等の見積額は、被災資産に係る保険金、損害賠償金等
   により補てんされる金額がある場合には、当該金額を控除した金
   額とします。
    ただし、この保険金等には、兵庫県等地方公共団体や取引先か
   ら受けた災害見舞金は含まれません。(震災通達4)
(3)益金算入時期の延長確認申請書は、修繕完了事業年度の終了の
   までに所轄税務署長に提出しなければなりません。申告期限の
   ではありませんので、特に注意して下さい。
     また、やむを得ない事情により修繕等が遅れている場合には、
   再延長の申請をすることができます。(震災通達5)
(4)賃貸人である法人が修繕等の補修義務がない賃貸資産を補修し
   た場合には、その補修費用については当該特別勘定の繰入れはで
   きませんが、支払った時に損金算入は認められます。(震災通達10)
                  
課題事項 
 災害損失特別勘定の繰入れは、震災の日を含む事業年度に限られ
ていたので、例えば平成7年1月〜3月決算の法人では修繕費等の
見積りが時間的に間に合わない事例が散見された、震災後6カ月間
程の混乱の状況を考慮すると次の事業年度の繰入れも認める必要が
あったのではと考えられます。
 
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