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51.相続税の災害減免
 平成6年10月相続により家屋を取得しましたが、この度の震
災により全壊となりました。この場合災害減免法の取扱いはど
のようになりますか。
1.相続財産の価額の合計額       8000万円
2.1のうち動産等の価額の合計額    5000万円
3.2のうち被害を受けた家屋の価額    600万円
相続人は1人です。
 
要旨
 相続税申告書の提出期限前に相続により取得した財産が大震災に
より甚大な被害を受けた場合には、相続税の課税価格計算上の特例
(災免法6条)の適用があり、損害を受けた額については、相続税
の課税財産に含めないでよいこととされています。
 
解説
 従来災免法第4条及び第6条では、相続財産について災害により
甚大な被害を受けた場合、つまり相続税の課税価格の計算の基礎と
なった財産の価額の合計額(債務控除後の価額)の内に被害を受け
た部分の価額の合計額の占める割合が10分の1以上であるときは減
免措置を受けることができました。
 しかし、相続財産である家屋が全壊した場合でも、その被害額が
相続財産の10分の1に満たないと災免法の適用がなくなるケースが
多くなることが想定されることから、相続税の課税対象となった相
続財産の内、個々の動産(金銭及び有価証券を除く。)、不動産(土
地及び土地の上に存する権利を除く。)及び立木(以下動産等とい
う)ごとに計算した被害を受けた部分の合計額が、相続税の課税価
格の計算の基礎となった動産等の価額の10分の1以上である場合
も、災免法の適用を受けることができることとなり、適用範囲が広
がりました。(災免法令11、12条)したがって、本事例の場合、被
害を受けた家屋の価額は600万円で、動産等の価額の合計額5000万
円の10分の1以上となるので、災免法の適用を受けることがでさま
す。具体的には次式により計算した課税価格に基づいて相続税の計
算をします。
 相続財産の価額−被害を受けた部分の価額=相続税の課税価格に
算入する価額。
質問の課税価格に算入する価額は、
8000万円−600万円=7400万円となります。
 また、本事例は相続税申告書の提出期限前に被害を受けた場合で
すが、相続等により取得した財産が相続税申告書の提出期限後に甚
大な被害を受けた場合で、延納による未納税額(支払期限が未到来
のものに限ります。)がある場合には、災免法第4条により相続税の
一部が免除されます。
具体的には次式により計算します。
被害のあった日以後   被害を受けた部分の価額   免除される
に納付すべき相続税額× ---------------------- = 相続税額
                       課税価格の計算の基礎と  
             なった財産の価額
 このように相続等により取得した財産について、災害により受け
た被害額が10分の1以上の場合は、財産額からその被害額を控除し
て相続税の計算を行い、延納中の相続税については被害額に対応す
る税額が免除されます。
 この場合災免法の適用の有無の判定、つまり被害額が10分の1か
どうかの判断は相続財産全体ではなく、相続人ごとに行います。し
たがって申告期限前に災害の被害を受け正式な遺産分割がまだ行わ
れていないときには、震災の被害を受けた財産は、相続する財産の
少ない人が相続するようにして10分の1以上の基準を満たすことに
より、相続人全員の相続税が減額されるよう相続人全員で協力して
遺産分割を検討する必要があります。
 
留意点
(1)上記計算中「被害のあった日以後において納付すべき相続税
  額」とは、延納中の税額や延納または物納の許可前の徴収猶予中
  の税額、農地等についての相続税の延納猶予中の税額などをいい
  ます。
(2)「課税価格の計算の基礎となった財産の価額」は相続財産につ
  いて小規模宅地等の特例などの相続税の課税価格の特例の計算の
  適用を受けているときは、その特例適用後の価額となります。
(3)災免法第6条の減免措置を受けるためには、相続税の期限内申
  告書に被害を受けた財産について、被害を受けた部分の価額を控
  除した価額により課税価格及び相続税額を記載するとともに、そ
  の財産の被害状況、その他一定の事項を記載した計算明細書を添
  付する必要があります。
   また、災免法第4条の減免措置を受けるには、@災害減免法の
  適用を受ける旨A被害の状況 B被害を受けた部分の価額、その
  他一定の事項を記載した「免除承認申請書」を納税地の税務署長
  に提出する必要があります。
(4)あらたに設けられた適用基準については、災免法第6条では平
  成7年3月27日以後に申告期限が到来する相続税について適用さ
  れ、災免法第4条では平成7年3月27日以後に納付すべき相続税
  から適用されます。
(5)「被害を受けた部分の価額」は個々の相続財産ごとに、被害の
  程度(被害割合)を基として次のとおり計算します。
   被害を受けた相続財産の価額×被害割合=被害を受けた部分の
  価額
   被害を受けた相続財産の価額は次の@、またはAの価額となり
  ます。
  @相続税の申告期限前に被害を受けた場合
    ‥‥相続等により取得した時の相続財産の価額
  A相続税の申告期限後に被害を受けた場合
   ‥‥相続税の課税価格に算入した価額
(6)被害割合は被害を受けた財産の、被害のあった時の時価(その
  財産が被害を受ける直前の価額)を基礎として計算した被害額
  が、その時価のうちに占める割合をいいます。また相続財産の被
  害額について保険金等による補てんがあるときには、その被害額
  から保険金等による補てん額を控除した金額となります。
(7)この度の大震災により相続財産に被害を受け、被害を受けた財
  産について個々に被害割合を計算することが困難な場合には、被
  害割合の簡易計算方法が設けられました。この簡易計算方法は、
  所得税における雑損控除の計算において認められる簡易計算と同
  様です。
 
課題事項
災免法第4条の規定は相続税を延納している場合に限り適用され
る措置であり、銀行等からの借入金で全額納付し、借入金返済中の
場合には適用されないことになっています。納税者間の不公平、不
合理が生じるため、一定期間を区切る等して完納している場合でも
何らかの減免措置を設けるべきでしょう。
 
52.同時死亡
  この震災で、父A母Bが全壊した建物の下敷きとなり死亡し
ました。遺体は息子C、D及び孫達により、まず、父親が1階
の寝室より、そして、昼近くになって母親が2階階段付近より
発見されました。
  夕刻、医者により死亡が確認され、父母ともに午前6時死亡
という死亡診断書が作成され、これに基づいて除籍の届出がな
されました。
相続税の申告について、母Bが父Aの相続人となるかどうか、
すなわち、配偶者の税額軽減の適用の可否及び、相続が2回に
分けられることの可否により相続税額に1億5000万円の差が生
じます。BがAの相続人になることはできないのでしょうか。
 
要旨
 AとBの戸籍上の死亡時刻が同一であるため、同時死亡者相互間
には相続関係は生じないことになり、BはAの相続人とはなり得ま
せん。
 したがって、配偶者の税額軽減も適用できない事になります。
 BがAの相続人となるためには、戸籍の記載事項の変更が必要と
なります。
 
解説
 民法においては、同一の危難であるかどうかにかかわらず複数の
者の死亡についていずれが先か後かが明らかでない場合には、同時
死亡の推定が広く適用されます。
第三十二条ノニ
死亡シクル数人中其一人ガ他ノ者ノ死亡後尚ホ生存シタルコト分明
ナラザルトキハ此等ノ者ハ同時ニ死亡シタモノト推定ス(昭和37年
追加)
 この同時死亡と戸籍の記載事項のいずれが優先されるかという問
題について考えてみます。戸籍の記載事項には、一応の証明力が認
められているため、反対の事実を主張する者には、立証責任が求め
られます。
 通常、医師の作成する診断書に記載される死亡時刻はおおむね実
際の死亡時刻に近いと考えられるのに対し、検案書に記載される
ものは、その検案者の医学的知識に基づいて推定された死亡時刻に
すぎません。
 以上のことから、一般的に同時死亡とされた戸籍の記載が死亡診
断書による場合には戸籍の記載が優先し、検案書による場合には死
亡時の状況による推定が優先することになると思われます。
  本事例の場合、大震災という混乱の中、医師の到着も夕刻であ
り、A、Bいずれの死亡が先か後かについて明らかでないため、同
時刻をもって死亡という診断書が作成されました。これは、医学的
な根拠をふまえてというものでなく「お二人とも午前6時でよろし
いですか。」という問いかけすらされていない状態です。
 ここで、発見者であったCまたはDが、AとBの遺体発見状況に
ついて事実を詳しく説明していれば、死亡時刻の記載は異なったも
のになっていた可能性もあったと考えられます。
 すなわち、Aは1階の寝室で眠ったままの場所で発見されたのに
対し、Bは2階階段付近まで移動していたことが明らかであり、ま
た、2階を寝室としていた同居家族(4名)は、全員生存していま
す。次に、戸簿の記載事項の変更がどの程度可能かという点につい
てですが、通常の戸籍の訂正について次のように規定しています。
 戸籍の記載が法律上許されないものであること、またはその記載
に錯誤若しくは遺漏があることを発見した場合には、利害関係人
は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍の訂正を申請することができる。
(戸籍法第113条)
 同時死亡の推定を覆すためにも、また、戸籍の記載事項を訂正す
るためにも、各人の死亡の状況について、客覿的にどちらが先に死
亡したかについての証明が求められることになります。つまり、い
ったんされた記載を訂正するのは、本事例のような場合、困難を伴
うものと思われます。
 
留意点
(1)同時死亡の場合、お互いに相続人となり得ないという民法の規
   定により、相続人たる納税者に大いなる不利益がもたらされる結
   果となりました。
(2)民法が同時死亡の推定を定めていることは、相続人の確定とい
   う点に争いをなくすため必要であることは評価されるべきもので
  ありましょうが、相続人の確定という問題が存在しない本事例の
  場合、納税額に1億5000万円の差が生じるというのは、納税者が
  納得するには大きすぎる不利益ではないでしょうか。
(3)大地震という混乱の中での死亡診断書の作成ではあったとして
   も、死亡時刻を違えることにより、相続が2回に分けられること
   も可能であったにもかかわらず、死亡診断書作成時の相続人の対
   応一つで納税額に大きな差が出る結果となりました。
  それでは、異時死亡が認められて父親が先に死亡したということ
になった場合にはどのような取扱いになるでしょうか。この場合、
被相続人の配偶者は、遺産分割協議の前に死亡したことになりま
す。そこで、遺産分割協議が成立するかどうかという問題と、母親
について配偶者の税額軽減の適用が認められるかどうかという問
が生じます。これらの点については、相続税基本通達19の2-5に
次のような取扱いが明らかにされています。
相続又は遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人
又は包括受遺者によって分割される前に、当該相続(以下19の2-
5において「第1次相続」という。)に係る被相続人の配偶者が死亡
した場合において、第1次相続により取得した財産の全部又は一部
が第1次相続に係る配偶者以外の共同相続人又は包括受遺者及び当
該配偶者の死亡に基づく相続に係る共同相続人又は包括受遺者によ
って分割され、その分割により当該配偶者の取得した財産として確
定させたものがあるときは、法第19条の2第2項の規定の適用に当
たっては、その財産は分割により当該配偶者が取得したものとして
取り扱うことができる」。
  大地震による相続の発生というのは、相続人にとって予期しない
出来事であり、また、相続人自身の自宅の全壊という生活基盤を失
ったショックの中で、父母の発見状況を細かく分析する冷静さを欠
いていた責任を納税者の責めに帰するのは過酷ではないでしょうか。
  戸籍の記載事項は、一見、客観的な事実のようでありながら、現
実はどうであったかという点について配慮する姿勢がほしいと思わ
れます。
 
53.相続における被災土地の評価
 平成6年12月16日に相続が発生しました。相続財産のうち、
土地は西宮市内の宅地ですが、阪神大震災により中央部に段差
がつき復旧には相当額が必要です。この土地の評価額はどのよ
うに計算しますか。
 この土地は相続発生時、貸家建付地でしたが、その後建物を
取り壊し、大震災発生時は更地になっています。
土地の面積 300u    借地権割合 70%
路 線 価 20万円    借家権割合 40%
調 整 率 0.8     被害割合 0.2
 
要旨
 相続により取得した大震災被災地の宅地については、平成6年に
発生した相続であっても、平成7年分財産評価基準に定める通常の
路線価または倍率に、調整率を乗じたものをそれぞれの路線価また
は倍率とし、財産評価通達に定める評価方式によって評価すること
ができます。また土地に段差があったとのことですので、災免法第
6条の規定による減免の適用がある場合には、土地の評価額に被害
割合を乗じた金額を被害を受けた部分の金額とし、相続財産から除
いて課税価格を計算します。
 
解説
(1)相続税計算上財産評価の原則は、相続発生日における時価です
   が、阪神・淡路大震災の対応措置として、申告期限が平成7年1
  月17日以後の相続税申告について、指定地域内の土地等(特定土
  地等)の評価額は、税負担等の観点から相続発生時の価額によら
  ず「大震災発生直後の価額」によることもできることとなりまし
   た。
(2)「大震災発生直後の価額」とは、特定土地等及びその特定土地
  等の上にある不動産の状況が大震災発生直後も引き続き相続等に
  より取得した時の現況にあったものとみなして、大震災発生直後
  における価額として評価した金額とされています。
(3)したがって相続開始時から大震災発生までの間に、特定土地等
  について区画形質の変更や利用状況、権利関係について変更があ
  った場合でもこの変更による地価の下落は考慮されず、相続開始
  直前に貸家建付地であったものが、大震災発生前には更地となっ
   ていても相続開始直前の利用状況である貸家建付地として「大震
   災発生直後の価額」を評価します。(震災特例法第29条)
  土地等が災害により損失を受けた場合において、物理的損害
 (隆起、陥没、亀裂等)があった場合に対する措置が災害減免法
  であるのに対し、経済的損害に対する措置がこの特例です。この
  特例は次の要件を満たす場合に限り適用されます。
@ 平成7年1月16日以前に相続または遺贈により取得した土地
  等であること。(相続税計算上「生前贈与加算の規定」の対象
  となる土地等を含む。)
A その相続等に係る相続税の申告期限が平成7年1月17日以後
  であること。
B 上記?の土地等を相続等により取得した者が平成7年1月
   17日においても当該土地を所有していること。
C 次の指定地域内にある土地または土地の上に存する権利(特
  定土地等)であること。
 大阪府 豊中市
 兵庫県 神戸市、尼崎市、明石市、西宮市、洲本市、芦屋市、
     伊丹市、宝塚市、三木市、川西市、津名郡、三原郡西淡町
D 申告書に特例の適用を受けようとする旨を記載すること。
  本事例の場合、平成6年の相続開始で特定土地等に該当します
  ので、平成7年分の路線価に調整率を乗じ、相続開始直前の利
  用状況である貸家建付地として評価した価額が「大震災発生直
  後の価額」となります。
  20万円×0.8=16万円  16万円×300u=4800万円
  4800万円−(4800万円×0.7×0.4)=3456万円
   また、被害割合が0.2となっていますので、災免法第6条の
  適用がある場合には、3456万円×(1−0.2)=2764.8万円が
  課税価格に算入される金額となります。
 
留意点
(1)この特例が適用されるのは平成7年1月17日において、当該土
  地等を相続人等が所有していた場合に限られますので、相続人等
  が相続により取得した土地を相続発生後、平成7年1月16日まで
  に売却した場合には、この特例措置の適用はなく、相続発生時点
   の価額になります。
(2)平成7年1月17日より平成7年10月30日までに申告期限が到来
   するものについては、その申告期限が平成7年10月31日まで延長
   されます。
(3)災免法第6条の規定による減免の適用がある場合とは、法定申
   告期限前に被害を受けた場合で、次のいずれかに該当する場合で
   す。
@ 財産の価額の合計額のうちに「被害を受けた部分の価額」の
   占める割合が10分の1以上である場合。
A 動産等(動産、建物、立木など)の価額の合計額のうちに
  「動産等について被害を受けた部分の価額」の占める割合が
    10分の1以上である場合。
 
課題事項
大震災直前に発生した相続についてのみ申告期限が延長されまし
たが、大震災直後に発生した相続についても申告期限の延長が認め
られても、よかったのではないでしょうか。
 
参考
調整率は次のとおりです。(平成7年のみ適用)
〔阪神〕
神戸市
長田区  0.75〜0.90
中央区、灘区、東灘区  0.75〜1.00
兵庫区、須磨区  0.80〜1.00
西宮市、芦屋市  0.80〜1.00
尼崎市、宝塚市、伊丹市  0.90〜1.00
川西市  0.95〜1.00
〔淡路〕
北淡町  0.85〜1.00
一宮町  0.90〜1.00
淡路町、東浦町、津名町  0.95〜1.00
 
54.地震保険金
 この震災により発生した火災でA所有の自宅が全焼しました。
また、Aの隣に住んでいたAの父B所有の自宅も同じ火災によ
り全焼し、Bは不幸にも鎮火後、遺体となって発見されました。
A、Bはそれぞれの自宅に地震保険をかけていたため、後日地
震保険金として、各500万円が支払われることになりました。こ
の保険金はどのように取り扱われますか。
 
要旨
 Aが取得した、自ら契約者となっていた地震保険金については、
所得税法上非課税となります。また、Bが契約者であったものにつ
いては、Bの相続財産に含まれ、建物の評価額で評価することにな
ります。
 
解説
 Aの自宅にかかる保険金については次の取扱いとなります。
次に掲げる所得については、所得税は課されません。
損害保険契約に基づき支払を受ける保険金及び損害賠償金(これ
らに類するものを含む。)で、心身に加えられた損害又は突発的な
事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の
政令で定めるもの。(所法第9条第1項第16号)
 また、Bの自宅にかかる保険金については、保険請求権は鎮火後
に発生することになります。本事例の場合、火事の鎮火後Bは既に
死亡していますので、保険請求権ではなく建物として取り扱われ、
その建物の固定資産税評価額で評価されることになります。よっ
て、地震保険金としては評価されません。
 
留意点
Bの相続財産としての評価を考えるとき、Bの死亡が鎮火の前か
後かで異なってきます。すなわち、本事例のようにBの死亡の方が
早かった場合には、家屋の固定資産税評価額で評価することになり
ますが、Bが、明らかに鎮火後に死亡したような場合には、地震保
険金の金額で評価することになるでしょう。
 
課題事項
今回の阪神・淡路大震災では、地震直後には倒壊を免れていた家
屋が、その後に発生した火災により全焼するという例が多く見られ
ました。
 この場合、火災そのものが地震により発生したものとして、いわ
ゆる火災保険金は支払われません。また、阪神間の地震保険の加入
率は非常に低いものでしたので、保険に加入しているつもりであっ
たのに保険金が支払われなかったという人々が大勢いたわけです。
 また、地震保険金は、通常の火災保険金に付帯する形で加入する
ものですが、その保険金額は火災保険の保険金額の30%〜50%、最
高1000万円というように、十分なものではありません。阪神・淡路
大震災では、加入率が低かったために適用されませんでしたが、地
震の規模が大きい場合には、支払われる保険金の総額が定められて
いるため、個々の保険金額は削減されることになります。すなわ
ち、地震保険に加入していたとしても、その保険金額が削減される
ということになるわけです。
 このように考えていくと、地震保険金が所得税法上非課税となっ
ていても、家屋を、また、生活を再建することは、大変難しいと思
われます。
 
 55.建物更生共済(地震保険)
 
 この震災で父A母Bが全壊した自宅の下敷きになり死亡しま
した。A、Bは、息子Cとその家族(妻D、孫E、F)と同居
していました。
  A及びCは自宅及び家財について建物更生共済を契約してい
ました。これについて後日建物に自然災害共済金、家財に動産特
約共済金、また、死亡したA、Bについて傷害共済金がおりまし
た。それぞれの取扱いはどうしたらよいでしょうか。なお、自宅
は、C、Eの名義で持ち分割合はそれぞれ2分の1ずつです。
 また、Aは、このほかに所有アパートを共済の目的とする建物
更生共済にも加入していました。このアパートも地震により全壊
しました。
 
要旨
共済の目的物件 共済契約者 被共済者 共済金返戻金受取人 課税関係
自宅、建物 C,E C.E 課税されない
自宅、家財 C.E C.E 課税されない
傷害共済 家族全員 相続人 相続税課税
返戻金          相続税課税
自宅、建物 C.E C.E 課税されない
自宅、家財 C.E C.E 課税されない
傷害共済 家族全員 相続人 所得税、一時所得
返戻金     所得税、一時所得
アパート 相続税課税
返戻金 相続税課税
解説
 建物更生共済については、共済金は建物の所有者である被共済者
に、返戻金は共済契約者に帰属することとなります。
(1)自宅にかかる共済金
 @ Aが、契約者となっていた契約にかかる共済金
前述したとおり、共済金は建物の所有者C、Eに帰属することに
なります。被相続人Aは、共済金について権利を有しませんので、
Aの相続財産には含まれません。また、C、Eの取得する共済金に
ついては、所得税法上の非課税となります。これらについては、契
約者が共済掛け金を支払った時点で贈与が発生していると考えられ
ているためです。
 損害保険契約に基づき支払を受ける保険金及び損害賠償金(これ
らに類する者を含む。)で心身に加えられた損害又は突発的な事故
により資産に加えられた損害に起因して取得するものその他の政令
で定めるもの(所法9条)
A Aが契約者となっていた契約にかかる返戻金
 前述のとおり、返戻金についての権利は共済契約者であるAが有
しますので、相続財産に含まれます。
B Cが契約者となっていた共済にかかる共済金
 @と同じく、C、Eの取得した共済金については、所得税法の非
課税となります。
C Cが契約者となっていた契約にかかる返戻金
 Cの一時所得の金額の計算上、総収入金額に算入します。また支
払った樹け金は一時所得の金額の計算上控除されます。
                       (所令184条)
(2)アパートにかかる共済金
@ 共済金
 アパートの所有者は、被相続人Aとなりますので、相続財産とな
ります。この場合、建物の固定資産税評価額と共済金請求権のいず
れをもって評価するかという問題が生じることになります。
 今回のように倒壊した建物の下敷きになり死亡した場合にはいず
れが先か極めて判断に迷うところです。これに類する事例で、火災
で全焼した建物から所有者が遺体となって発見されたというような
場合については建物の固定資産税評価額で評価することになってい
ます。これは、鏡火後初めて保険金請求権が発生するという考え方
を根拠としたものですから、逆に、助け出されて、病院で死亡した
ような場合には保険金請求権で評価することになるでしょう。
 火災保険については、通常、建物の固定資産税評価額より保険金
請求権の方が大きいと考えられますが、地震保険については、その
金額が小さいことからどちらで評価する方が有利かは個々のケース
で異なってくると思われます。
A 返戻金
 前述のとおり、共済契約者にかかる相続財産となります。
(3)傷害共済金
 @ 被相続人Aが契約者となった共済にかかるもの
   A、Bいずれについても共済金は相続税のみなし相続財産と
     なります。
 A 被相続人Cが契約者となった共済にかかるもの
   受取人もCであり、Cの一時所得として課税されます。
 
留意点
 建物更生共済については、その共済掛金の負担者と被共済者が異
なる場合においても、掛け金を支払った都度贈与が発生していると
考えられるため、その共済金の取得について、贈与税または、相続
税は課せられません。
 
課題事項
通常、建物の固定資産税評価額の方が保険金請求権より低いと思
われますが、仮に、逆のケースがあった場合でも建物の固定資産税
評価額で評価することになるのでしょうか。また、これは、地震に
も準用されることになるのでしょうか。
 今回、地震保険の加入者が少なく、建物更生共済を取り上げまし
たが、今回の地震保険金、共済金のように金額が小さい場合には、
保険金または共済金で評価した方が有利という場合もあるのではな
いでしょうか。
 
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